変形性股関節症患者におけるリーチ動作の運動学的・運動力学的特徴

DOI
  • 福元 喜啓
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻 日本学術振興会(特別研究員)
  • 建内 宏重
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻
  • 塚越 累
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻
  • 上村 一樹
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻
  • 秋山 治彦
    京都大学医学部附属病院整形外科
  • 後藤 公志
    京都大学医学部附属病院整形外科
  • 宋 和隆
    京都大学医学部附属病院整形外科
  • 中村 孝志
    京都大学医学部附属病院整形外科
  • 市橋 則明
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻

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抄録

【目的】Functional Reach Testは立位での前方リーチを用いた簡便な動的バランス能力の指標であり,高い再現性や妥当性が示されている。変形性股関節症(以下,股関節症)は様々な運動機能の低下をきたす進行性の関節変性疾患であるが,その動作解析を行った研究では主に歩行解析を扱った報告が多く,リーチ動作を解析した報告は見当たらない。股関節症患者のリーチ動作を運動学的・運動力学的に解析し健常者と比較することで,股関節症患者の立位姿勢における動的姿勢制御の特徴を明らかにすることが可能となる。本研究の目的は,股関節症患者と健常者におけるリーチ動作の運動学的・運動力学的差異を検討することである。<BR><BR>【方法】対象は股関節症女性患者8名(平均年齢52.9±7.1歳,身長154.8±6.1cm,体重55.3±5.0kg,以下OA群)および健常女性12名(年齢59.8±4.9歳,身長155.7±5.4cm,体重50.5±4.6kg,以下健常群)とした。健常群と比べOA群は年齢が有意に低く,体重が有意に大きかったが(p<0.05),身長は両群間で有意差がなかった。リーチ動作の開始肢位は,OA群では患側,健常群では非利き足側の上肢を90°挙上した立位とした。開始肢位を3秒間保持した後,前方へ最大リーチした肢位を3秒間保持する動作を,3次元動作解析装置(VICON社製,サンプリング周波数200Hz)および2台の床反力計(Kistler社製,サンプリング周波数1000Hz)を使用して解析した。反射マーカーはplug in gait full bodyモデルに準じて貼付した。開始肢位から最大リーチ肢位までにリーチ側の手関節部反射マーカーが前方移動した距離により,最大リーチ距離(cm)を規定した。また,最大リーチ肢位における両側の股関節屈曲,内転,内旋角度と足関節底屈角度,体幹の屈曲,側屈,回旋角度および骨盤の前方傾斜,側方傾斜,前方回旋角度(°)を求めた。さらに両側の股関節屈曲,足関節背屈の外的モーメント(Nm/kg)も算出した。リーチ試行回数は3回とし,平均値を分析に用いた。統計学的検定として,マンホイットニ検定を用いて,各測定項目の群間比較を行った。統計の有意水準は5%未満とした。<BR><BR>【説明と同意】本研究は所属機関の倫理委員会の承認を得て行われた。対象者には研究内容の説明を行い,書面にて参加の同意を得た。<BR><BR>【結果】リーチ距離は,OA群が31.0±4.3cm,健常群が35.6±3.4cmであり,健常群と比較しOA群で有意に短かった(p<0.05)。最大リーチ肢位における股屈曲,内転,内旋角度は,リーチ側,非リーチ側ともにOA群と健常群で有意差はなかった。一方,足底屈角度はリーチ側(OA群7.5±2.1°,健常群3.9±2.6°),非リーチ側(OA群8.5±1.8°,健常群6.4±2.7°)ともにOA群が健常群よりも有意に大きかった(p<0.05)。体幹の屈曲,側屈角度と骨盤の前方傾斜,側方傾斜角度では群間の有意差がなかったが,体幹回旋角度(OA群3.5±4.1°,健常群8.6±3.3°)と骨盤前方回旋角度(OA群4.2±3.7°,健常群9.6±6.1°)ではOA群が健常群よりも有意に小さかった(p<0.05)。股屈曲モーメントは,リーチ側では群間の有意差がなかったが,非リーチ側では健常群と比べOA群で有意に大きかった(p<0.05)。一方,足背屈モーメントはリーチ側ではOA群と比べ健常群で有意に大きい値を示し(p<0.01),非リーチ側では群間の有意差は認められなかった。<BR><BR>【考察】立位時における平衡の乱れに対する姿勢制御のストラテジーとして,リーチ動作では股関節ストラテジーや足関節ストラテジーが用いられる(大畑ら2003,Liao ら2008)。本研究では,OA群が健常群より低年齢であったにも関わらず,OA群のリーチ距離は健常群よりも短縮していた。最大リーチ肢位での体幹回旋角度,骨盤前方回旋角度とリーチ側の足背屈モーメントがOA群と比べ健常群で大きかったことから,健常群は体幹と骨盤の回旋を大きくし,重心をリーチ側前方へ移動させることで,長いリーチ距離を可能としていると考えられた。すなわち,OA群はこのような体幹,骨盤の回旋を伴った患側の足ストラテジーによる姿勢調節が困難となり,リーチ距離が短縮していることが推察された。一方,両側股関節角度とリーチ側股屈曲モーメントには群間の有意差がなく,また非リーチ側の股屈曲モーメントは健常群よりOA群で大きかったことから,OA群の姿勢制御における股ストラテジーは比較的保たれていることが示唆された。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】本研究は,股関節症患者の立位姿勢における動的姿勢制御能力の評価や治療には股関節のみでなく足関節や体幹,骨盤の運動にも着目する必要があることを示したものであり,理学療法学研究としての意義は大きい。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), CbPI1232-CbPI1232, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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