回復期リハビリテーション病棟における認知症を有する患者への介入効果
説明
【目的】 回復期リハ病棟は、ADL向上による廃用症候群の予防と自宅復帰を目的とする病棟であるが、この阻害因子として認知症が挙げられる。しかしながら、介入効果が期待出来ない訳ではなく、先行研究においても認知症患者のADL改善を示す報告は多い。だが、これらの報告の多くはFIMを合計点数で表したものであり、ADL改善がどの部分の改善に因るものなのか、FIMの運動又は認知項目に分けて検討したものは少ない。また訓練時間増加に伴い、ADL改善が促される事が多数報告されているが、職種間の訓練時間の違いにより介入効果が異なるのか、ADLの改善とPT・OT・STの訓練時間配分との関係性について言及したものは散見される程度である。そこで今回、FIMを指標とし、認知症を有する患者に対しての介入効果、及びPT・OT・STの個別リハ実施単位数との関係性について検討したので報告する。【方法】 対象は、2010年8月から2011年10月までの期間に当院回復期リハ病棟に入院し、退院となった患者269例。調査項目としては、疾患名、HDS-R、入退院時のFIM、職種別の個別リハ実施単位数をカルテより後方視的に抽出した。疾患名より、脳血管疾患例と運動器疾患例の2つに大分類し、それぞれをHDS-Rより認知症有り・無しの2群に小分類した。また小分類の各群において、運動及び認知項目に分けた入退院時のFIM利得及び個別リハの平均単位数について比較検討した。統計学的処理は、認知症有り・無しの各群における運動・認知項目のFIM点数の変化に関してはWilcoxon符号付順位和検定、認知症有り群と無し群でのFIM利得及び個別リハの平均単位数の比較に関してはMann-Whitney U検定を用い、有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮】 本研究の内容はヘルシンキ宣言に基づき、当院倫理審査委員会の承認を受けて実施した。またデータ処理に関しては、対象者の個人情報を排除し、匿名化に配慮して統計的解析を行った。【結果】 脳血管疾患は60例で、認知症有り群22例、無し群38例。運動器疾患は209例で、認知症有り群69例、無し群140例であった。入退院時の運動・認知項目のFIM点数の変化では、脳血管・運動器疾患例ともに、認知症の有無に関わらず、有意な改善が認められた(p<0.01)。認知症有り群と無し群のFIM利得では、運動器疾患例の認知項目においてのみ、認知症有り群1.4点、認知症無し群0.6点で有意差が認められた(p<0.01)。個別リハの平均単位数の比較では、認知症有り群と無し群の比較において有意差は認められなかったが、脳血管・運動器疾患例ともに、認知症有り群ではOTの平均単位数、認知症無し群ではPTの平均単位数で0.1~0.2単位程度ではあるが多い傾向が示された。【考察】 先行研究同様、本研究においても認知症を有する患者のADL改善が認められ、運動器疾患例の認知項目を除き、認知症有り群と無し群との間で、その改善程度に有意差は見られなかった。これは対象者の障害程度に応じて訓練内容を検討し、個別的な介入を行った結果、認知症に関わらず、一定の介入効果を示すに至ったものと思われる。加えて、有意差は認められなかったものの、脳血管・運動器疾患例でともに、認知症有り群ではOT、無し群ではPTの平均単位数が僅かではあるが多い傾向が示された事から、職種による専門性もADLの改善に何らかの影響を及ぼしている可能性も示唆された。よって今後は、訓練単位数のみならず、その職種の専門性が与える影響に関しても調査を行い、費用対効果の面においても効率的な介入効果が得られるよう検証する必要があるように思われる。【理学療法学研究としての意義】 回復期リハ病棟は、特に職種間の連携が重要視される病棟である。対象者の障害程度に応じた職種別の訓練時間の配分を調整する事により、効率的な介入効果が期待出来ると思われ、本研究はその検討材料のひとつとして有用と考える。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2011 (0), Eb1274-Eb1274, 2012
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205571903616
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- NII論文ID
- 130004693570
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可