腹部肥満者を対象とした行動変容技法を用いた介入効果の検討

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抄録

【はじめに、目的】 腹部肥満を呈する内臓脂肪型肥満は、メタボリックシンドロームなどの発症リスクを高める要因となる。改善方法として、運動や食事などの生活習慣の是正が有効であるが、自覚症状がほとんどないため、生活習慣改善のための行動の開始や継続が容易ではない。そこで、本研究は,腹部肥満者を対象として行動変容技法を用いた介入を実施し、生活習慣改善による腹部肥満等への効果を検討した。【方法】 対象者は、30歳以上、腹囲が男性85cm、女性90cm以上でメタボリックシンドロームではない者とした。研究参加者21名を介入群10名 (男性9名、女性1名、平均年齢41.8±9.2歳)と統制群11名 (男性11名、平均年齢44.8±11.9歳) に無作為に振り分けた。 方法は、はじめに両群に「知識提供」として、生活習慣改善の目的や方法、効果に関する小冊子を配布した。介入群への介入内容は、1.生活習慣調査の結果を提示し、運動習慣や食事習慣の改善に関する目標行動を1-2項目設定させた。目標内容は実行できる自信が95%以上ある「自己効力感の高い」内容となるよう指導した。目標は4週間毎に見直しを行った。3.自己記録表に目標の達成度、体重、歩数、腹囲、コメントを毎日 (腹囲のみ週1回) 記載し、週1回電子メールにて提出させた。4.研究者は自己記録表の内容をもとに行動への「賞賛」や各自の「行動パターンの長所や問題点への対処方法」について参加者自身に思考させることを意図した助言を返信した。介入期間は12週間。 測定は開始時と終了時 (12週間後) に行った。測定項目は、国際標準化身体活動質問票より総身体活動量、食物摂取頻度調査より総エネルギー摂取量を算出した。血中脂質として総コレステロール (以下TC)、高比重リポタンパクコレステロール (以下HDL-C)、中性脂肪 (以下TG) を測定した。また、身体計測として腹囲および身長、体重よりBody Mass Index (以下BMI) を算出した。 統計処理は、開始時における両群の基本属性の比較および開始時と終了時の各測定値の変化量の比較についてWilcoxonの符号付順位検定にて検定を行った。統計学的有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は目白大学倫理審査委員会の承認を得た上で実施した。また、実施にあたり、参加者に研究の概要と目的、利益と不利益を口頭と書面で説明した後、同意の得られた者のみ同意書への署名を行い研究参加者とした。【結果】 開始時における両群の年齢、身長、体重、BMI、腹囲、総身体活動量、総エネルギー摂取量、血中脂質のすべての測定値に差はなかった。開始時を0とした終了時における変化量の平均値を介入群、統制群の順で示す。体重 (kg)は、-3.2±2.2、-0.8±1.5、BMI (kg/m2)は、-1.1±0.8、-0.3±0.5、腹囲 (cm) は、-3.4±3.5、+1.3±1.9であり、体重 (p<.05)、BMI (p<.05)、腹囲 (p<.01) とも統制群に比較して介入群のほうが有意に減少した。総身体活動量 (Mets・分/週) は、+277.1±2014.6、+121.8±1113.2、総エネルギー摂取量 (kcal/日) は、-176.1±394.8、-40.7±511.8、血中脂質 (mg/dl) は、TC-11.4±12.9、-13.3±18.8、HDL-C-1.1±6.5、-2.3±6.4、TG-22.9±42.2、+59.8±189.1であり総身体活動量、総エネルギー摂取量、血中脂質の変化量は両群に差はなかった。【考察】 行動変容技法のうち、動機づけ面接 (Miller WR & Rollnick S) では、行動を開始、継続するためには、その行動に対する「重要性と自信」を高めることが重要であるといわれている。本研究では、両群に重要性を向上させるために知識提供を行った。さらに介入群には、行動実施への自信を高めるために、自己効力感の高い目標の設定や問題への対処能力の向上、行動に対する賞賛を行い、行動を強化した。その結果、知識提供のみの統制群に比べて、介入群の腹囲、BMIは有意に改善した。自覚症状が乏しい者への指導では、知識提供に加えて、行動実施への自信を高める介入が有用であることが示唆された。今後は、参加者数や評価内容を検討し、さらなる検証が必要である。【理学療法学研究としての意義】 生活習慣病患者の増加に伴い、自覚症状が乏しい患者への効果的な運動指導能力の必要性が高まっており、発症予防分野への理学療法士の貢献においても意義のある知見であると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100651-48100651, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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