前腕支持台付き歩行車が歩行に及ぼす影響
書誌事項
- タイトル別名
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- ─歩行速度,持久力,動的バランスの観点から─
説明
【はじめに、目的】 歩行車の構造が歩行へ及ぼす影響について,著者らは健常成人を対象とした先行研究にて歩行車のグリップ部分の形状の違いとそれに伴う姿勢の変化が歩行に及ぼす影響を床反力計と表面筋電図を用いて検討し,グリップ使用の歩行車と比較して前腕支持台付き歩行車は,歩行時の駆動力を補助していることを報告した.しかしながら,対象者が健常者であったことから,歩行器や歩行車を日常生活にて利用している者の歩行速度や持久力にどのような影響を与えているかは不明である.そこで本研究では歩行器,歩行車の利用者を対象として,歩行速度の測定,長距離歩行検査,動的バランス検査により,前腕支持台付き歩行車とグリップタイプの歩行車,シルバーカーを用いて移動支援用具の構造の違いが歩行に及ぼす影響を明らかにすることを目的として実験を行った.【方法】 対象は,某老人保健施設に入所中の歩行時に移動支援用具を必要とする高齢者10名とした.対象者の移動レベルは,歩行車・歩行器使用が4名,歩行車・歩行器と車いすを併用している者が6名であった.実験には,前腕支持台付き歩行車(ウェルパートナーズ社製:ラビット)とシルバーカー (須恵廣工業社製:ユーメイト)を使用した.ラビットは,前腕支持台を前方に移動させることで2つのグリップが出現し,それを把持しての使用も可能となっており,本実験ではグリップ使用の歩行車として用いた. 実験条件は,前腕支持台使用(支持台高は肘の高さ),グリップ使用(両側のグリップを把持:グリップ高は肘30°屈曲位),シルバーカー使用(グリップ高は肘30°屈曲位)の3条件とした.歩行速度は,10mの直線区間の最大努力による歩行時間と歩数を測定し,最大歩行速度(m/min),歩幅(m),歩行率(steps/min)を算出した.長距離歩行検査としては,シャトル・スタミナウォークテストを用いた.さらに動的バランス検査としてTimed Up & Go Testを実施した.最大歩行速度,歩幅,歩行率,シャトル・スタミナウォークテスト,Timed Up & Go Testにおける3条件間での比較のために,統計学的解析には一元配置分散分析と多重比較を用い,危険率5%未満をもって有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】 各対象者には事前に本研究の趣旨と目的を文書にて説明した上で協力を求め,同意書に署名・捺印を得た.本研究は,演者の所属施設の倫理委員会の承認を得た後に実施した(承認番号:270).【結果】 最大歩行速度ではグリップ使用の33.8±8.5m/min,シルバーカー使用の31.9±9.3m/minに対して前腕支持台使用では43.7±8.0m/minであり,速度の有意な増加を認めた.歩幅は,グリップ使用の0.34±0.07m,シルバーカー使用の0.33±0.07mに対して前腕支持台使用では0.40±0.09m,歩行率では,グリップ使用の98.3±17.5steps/min,シルバーカー使用の97.8±20.6steps/minに対して前腕支持台使用では110.9±13.1steps/minであり, 歩幅と歩行率ともに前腕支持台使用にて有意な増加が認められた.シャトル・スタミナウォークテストについては,グリップ使用の66.2±16.2m,シルバーカー使用の62.3±11.7mに対して前腕支持台使用では83.7±15.5mと前腕支持台使用にて有意な歩行距離の延長が認められた.Timed Up & Go Testでは,グリップ使用の22.5±5.8sec,シルバーカー使用の25.1±3.6secに対して前腕支持台使用では20.7±4.8secであり前腕支持台使用にて有意に速い値を示した.【考察】 前腕支持台付き歩行車はグリップ使用の歩行車やシルバーカーと比べて歩行車・歩行器を日常生活にて利用している者や歩行車・歩行器と車いすを併用している高齢者の歩行速度や持久力,動的バランスの向上に有効であることが確認され,先行研究を裏付ける結果となった.移動能力の低下した高齢者の自立した生活の維持や生活範囲の拡大のためにも,安全で安楽な歩行習慣を維持しておくことは重要である.本研究の結果より,移動に歩行車・歩行器が必要な者及び歩行車・歩行器と車いすを併用している状況の高齢者の歩行範囲を安全に拡げていくためには,シルバーカーやグリップ使用の歩行車よりも前腕支持台付き歩行車の使用を推奨することができると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 前腕支持台付き歩行車は高齢者の自立した生活の維持や生活範囲の拡大に有効であることが確認された.理学療法士が高齢者の生活支援に関わる上で意義がある.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2011 (0), Eb0634-Eb0634, 2012
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205572003328
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- NII論文ID
- 130004693510
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可