当学院における客観的臨床能力試験(OSCE)と学内成績との関係について

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抄録

【目的】<BR>本学院では平成18年度より臨床実習前の学生の情意領域および情意運動領域の把握を目的に客観的臨床能力試験(Objective Structured Clinical Examination,以下OSCE)を導入している. <BR>我々はこれまでに、認知領域と精神・情意運動領域の相互の習熟度の関係について、OSCEとOSCEの内容に即した知識試験(Paper Based Test,以下PBT)との関係についての考察<BR>を実施し4グループに分類できることを報告した(第20回教育研究大会).さらに、この結果をもとに班編成することで学生個々人の習熟度に応じた効果的な協同学習効果について国家試験模試の結果をもとに考察をおこない、難易度の高い応用問題になると差が生じやすい傾向を示し、4タイプ毎に特徴がある事を報告した(第21回教育研究大会). <BR>今回、臨床実習実践に必要不可欠となる専門基礎(16科目)および専門(15科目)の計31科目の学内成績とOSCE結果との関係について検討を試みたので報告する.<BR>【方法】<BR>西リハ版OSCEを使用し、中枢神経系と整形外科系の2課題113項目を評価した.中枢系課題は脳梗塞後左片麻痺を模擬症例とし、1)医療面接(基本的態度を含む)、2)脈拍・血圧測定、3)起立・立位評価、バランス検査、4)(4)歩行練習の66項目を評価した.整形外科系課題は、左股関節人工骨頭置換術後を模擬症例とし、1)医療面接(基本的態度を含む)、2)検査測定(ROM-T,MMT)、(3)歩行練習の47項目を評価した.そして、OSCEと学内成績31科目を検討するため、OSCEの課題別点数を100点満点に換算し、その換算した点数の課題別平均点と学内成績31科目の総平均点数間の比較、検討を行った.<BR>統計処理としてはウェルチのt検定(平均値検定)を用いた。(p<0.05)<BR>【説明と同意】<BR>当学院倫理委員の承認後、本研究の意義を説明し同意を得た本学院在籍中(2010年11月10日現在)の昼間部3年生35名と夜間部4年生32名の最終学年67名を対象とした.<BR>【結果】<BR>中枢系課題の各項目換算平均点数は、1)58.7点、2)64.5点、3)29.3点、4)29.0点、整形外科系課題の各項目換算平均点数、1)72.3点、2)46.7点、3)51.5点であった.<BR>31科目の学内成績は最低平均点数55.5点、最高平均点数86.2点、全平均点数68.6±8.3点であった(全ての点数は再試験前の初点のみとした).<BR>OSCE各項目換算平均点数と31科目の全体平均数間の比較では、中枢系課題では1)P=9.01×10-7(学内成績高い)、2)P=0.147、3)P=4.62×10-17(学内成績高い)、4)P=6.44×10-13(学内成績高い)、整形外科系課題1)P=0.55、2)P=5.38×10-7(学内成績高い)、3)P=1.61×10-5(学内成績高い)の結果となり、中枢系課題2)、整形外科系課題1)以外の項目に有意な差が認められた.<BR>【考察】<BR>今回の結果より、学内成績と情意運動領域と技術領域の中枢系課題2)に有意差が認められなかったことから、反復練習によるスキルアップが獲得されやすい血圧・脈拍測定という課題では、パターン学習的要素が大きく関与し、認知領域での関与は薄いのではないかと推測された.<BR>学内成績と情意領域課題である整形外科系課題1)とに有意差が認められなかったこと、さらに学内成績とOSCE各項目間で有意な差が認められたことから、学内成績結果が、情意領域及び情意運動領域に教育効果として関与しない可能性と、技能領域(実践場面)に及ぼす認知領域教育効果の薄さが挙げられた.<BR>以上より、情意領域及び情意運動領域の評価を認知領域(学内成績)から教員側が掌握すること自体困難であることが言える.今後は、臨床実習に向けた取り組みとしてだけではなく、OSCEによる学生個々人の情意領域及び情意運動領域の評価を複数回実施し、教員側がいち早く学生への情意領域及び情意運動領域面への早期フィードバックを進めていくことの必要性が望まれる結果となった. <BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>教育においては、精神領域や情意運動領域のみの評価に加え、認知領域とのバランスが重要であると考える.これまでの報告でOSCEは情意・精神運動領域の評価として、筆記試験等の認知領域とは異なる領域であるとされており、認知領域と精神・情意運動領域の相互の習熟度の関係を明らかにした報告は少ないため、この関係性について明らかにすることは理学療法教育上の有用な意義を示すことと成り得る.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), GeOS3081-GeOS3081, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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