両上肢の前挙・肩甲骨面挙上・外転における上腕外旋角度の違いはあるか

説明

【目的】 上肢挙上の際,上腕の外旋運動を伴うことが報告されている.また凍結肩や症候性腱板断裂では,外旋運動制限のために挙上が制限される.これまでの研究において,上肢挙上時の上腕回旋運動は静的肢位で評価されることが多く,挙上時の外旋運動を動的かつ挙上面の違いによりに比較した報告は少ない.本研究の目的は三次元動作解析装置を用い,異なる挙上面での上肢挙上運動と上腕外旋角度の関係に利き手側(DS: Dominant Side)と非利き手側(NS: Non dominant Side)で違いがあるか調査することである.【方法】 対象は肩に愁訴がない健常男性20名,平均年齢22歳(19~35歳),身長170±5cm,体重69±16kgの両肩とした.測定は基本的立位肢位から,矢状面(以下前挙),肩甲骨面,前額面(以下外転)での挙上を各3回試行した.挙上動作を三次元動作解析装置(MotionAnaiysis製,MAC 3D system)で記録し(frame rate 200Hz),角度情報を三次元動作解析ソフト(キッセイコムテック製,KineAnalyzer)にて解析した.体表マーカーは肩甲骨(肩甲棘内縁,肩甲棘中央部),上腕骨(骨頭前・後,内・外側上顆),脊椎(C7,L5)にスキンアーチファクトを考慮して挙上中間位にて貼付した.肩甲骨に貼付した2点のマーカーを結んだ線を肩甲棘軸,上腕内・外側上顆のマーカーを結ぶ線を上腕軸として,2本の軸のなす角を上腕回旋角度とした.外旋角度は上腕挙上角度10度ごとに最大挙上角度まで算出した.統計処理はSPSS for Windows Ver.18Jを用いて二元配置分散分析(p<0.05)により比較した.【倫理的配慮,説明と同意】 本研究は,学校法人こおりやま東都学園 研究倫理委員会の審議により承認されたもの (倫理委07-002) であり,本研究の趣旨を充分に説明し書面で同意を得た被検者の参加により実施した.【結果】 各挙上面での上肢の最大挙上角度に有意差はなかった.各挙上面での平均外旋角度は前挙(DS: 57.5度,NS: 55.4度),肩甲骨面 (DS: 50.1度,NS: 44.8度),外転(DS: 47.7度,ND: 49.0度)であり統計学的に差はなかった.しかし挙上面の違いにより比較すると,挙上10~40度までは外転での外旋角度は前挙よりも有意に大きかった.【考察】 これまで上肢挙上時の上腕回旋運動は,三次元動作解析装置だけでなく,精度の高いCTやMRIを用いて計測されるようになった.しかし,これらは静的肢位での評価であり,動的な角度変化を調査した本研究の各挙上面における外旋角度の比較は,上肢の挙上動作の評価を行う上で有用である.DSとNSの各挙上面における上腕外旋角度に差はなく,両腕の比較評価に用いることは妥当と考えられる.また,運動中の上腕外旋運動は,前挙と外転時を比較すると挙上初期に外旋運動が起きていることに着目する必要がある.肩の疾患においては,前挙より外転が制限され,外旋も制限されていることを経験する.本研究から外転は前挙と比べ挙上初期から上腕の外旋が必要とされ,腱板機能として上腕骨外旋を主動する肩甲下筋,棘下筋,小円筋などの関与が重要である.したがって今後は腱板筋群の筋活動を調査する必要がある.【理学療法学研究としての意義】 理学療法の臨床場面においては,よく患側と健側との比較が行われる.これは対象者のDSとNS(または右側と左側)の関節運動が同じであることを想定しての比較検査法であり,簡単かつ有用である.健常者のDSとNSの動的な関節運動を比較し,違いの有無を検討すれば,この方法の正当性の検証につながり理学療法にとって意味がある.また,各挙上面における上肢挙上時の上腕外旋運動の検討は,考察でも触れたように理学療法の臨床にとって必要な事項であると考える.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Aa0155-Aa0155, 2012

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572046208
  • NII論文ID
    130004692284
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.aa0155.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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