末梢性顔面神経麻痺による病的共同運動に対して即時効果がみられた症例
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【はじめに、目的】末梢性顔面神経麻痺の後遺症として病的共同運動、顔面硬縮、顔面痙攣がある。病的共同運動は顔面神経の過誤や神経生成時に迷入再生回路を形成することが原因といわれている。栢森によればベル麻痺などのヘルペス顔面神経炎による末梢性顔面神経麻痺では、柳原40点法(以下柳原法)による評価で発症4週間後に10/40点以下では発症4か月以降に病的共同運動や顔面硬縮を顕在化しやすいと述べている。顔面筋回復過程は臨床的分類によると完全麻痺期、運動回復期、病的共同運動期に分類される。今回は聴神経腫瘍摘出後の末梢性顔面神経麻痺症例に上記の説を照らし合わせてみた。柳原法10/40点以下で病的共同運動を呈する症例に対して病的共同運動の軽減を目的に非麻痺側の過剰な努力を抑制することで病的共同運動の軽減がみられたので報告する。【症例紹介】50代女性、15年前より突発性難聴と診断。左聴神経腫瘍の拡大、聴力低下が認められたため摘出術施行。術後、顔面神経麻痺。柳原法7/40点、安静時非対称2点、軽い閉眼1点、頬をふくらます2点、口笛2点が加点項目である。病的共同運動は中村(愛媛大学)による評価方法を使用した。額のしわ寄せ、弱閉眼、口笛の3つのトリガー運動を行わせた。額のしわ寄せは困難、弱閉眼は安静時と比較して口角の拳上、広頸筋の痙縮が10mm以上みられた。口笛は安静時と比較して広頸筋の痙縮が10mm以上みられた。【方法】術後よりリハビリテーション(以下リハ)介入、合計16回のリハを実施。額のしわ寄せ、弱閉眼、口笛運動時にみられる非麻痺側の過剰な努力をセラピストの徒手と口頭指示を伝えることで過剰な努力を抑制した。うち1日のリハ実施前、実施後に顔面神経麻痺と病的共同運動の評価を行った。評価方法は顔面神経麻痺には柳原法、病的共同運動には中村の評価方法を使用した。【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき本研究に関する内容説明を実施。本患者より同意を得た。【結果】柳原法による評価ではリハ実施前7/40点、実施後8/40点となった。イーと歯を見せる動作において口角が固定しているが、緊張はみられる状態となった。病的共同運動の評価ではリハ実施前9点、リハ実施後6点となった。額のしわ寄せはリハ実施前、実施後ともに困難であった。弱閉眼はリハ実施前、口角の拳上、広頸筋の痙縮が10mm以上であったが、実施後5mm以上10mm以下となった。口笛はリハ実施前、広頸筋の痙縮10mm以上であったが、実施後5mm以上10mm以下となった。【考察】今回は病的共同運動の軽減を目的にリハを実施。病的共同運動の軽減には効果がみられた。額のしわ寄せ、弱閉眼、口笛運動時にみられていた非麻痺側の過剰な努力に対して徒手と口頭指示を伝えることにより顔面運動時の努力量が調節されたことが病的共同運動の軽減に効果的であったと思われる。病的共同運動時期のリハ目標として栢森は迷入再生回路を強化づけない、残っている健常軸索支配を強化する、大脳皮質レベルでの表情筋支配の再構築を挙げている。今回の症例ではこれらのいずれかの作用に影響を与えたものと思われる。顔面神経麻痺の治療では麻痺筋の促通に着目し、粗大な筋力強化や低周波治療も検討されるが病的共同運動を助長するとの説も見受けられる。末梢性顔面神経麻痺発症4週間後に柳原法10/40点以下では4か月後に病的共同運動が顕在化しやすいことも加味して、病的共同運動抑制をリハ目標に定めることも一つの案になりうるのではないだろうか。ヘルペス顔面神経炎と聴神経腫瘍摘出後では末梢性顔面神経麻痺の発生機序は同一のものではないであろうが、早期よりリハ介入を行い誤った身体活動を修正することは後遺症を予防、軽減するために効果的であると考えられる。なお今回のリハでは末梢性顔面神経麻痺の改善には効果的な結果が得られなかった点は今後の課題としていきたい。【理学療法学研究としての意義】末梢性顔面神経麻痺のリハとして顔面神経麻痺の改善だけでなく、麻痺の程度によっては病的共同運動などの後遺症予防、軽減を行うことも有効であると思われる。本研究が今後の治療の一助となることを願う次第である。
Journal
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- Congress of the Japanese Physical Therapy Association
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Congress of the Japanese Physical Therapy Association 2012 (0), 48100679-48100679, 2013
Japanese Physical Therapy Association(Renamed Japanese Society of Physical Therapy)
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Details 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205572062848
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- NII Article ID
- 130004585134
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- Text Lang
- ja
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- Data Source
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- JaLC
- CiNii Articles
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- Abstract License Flag
- Disallowed