人工膝関節全置換術施行患者の満足度に影響を与える機能評価について
説明
【目的】我々は、2010年4月より本学附属の4病院(以下4病院)にて、人工膝関節全置換術(以下TKA)患者を対象に統一した評価表を用いている。本評価表は機能評価と問診票で構成されており、評価時期は術前、術後3週、術後8週、術後12週の全4回となっている。機能評価にはROMや筋力、最大歩行速度(Maximum Walking Speed以下MWS)やTimed Up&Goテスト(以下TUG)、Stretch-Shortening Cycle(以下SSC)運動であるQuick Squat(以下QS)などが含まれている。問診表は、「日常生活動作16項目」、「疼痛8項目」、「満足度7項目」の全31項目で構成されており、それぞれ5段階スケールで回答する質問紙法となっている。TKAの術後に関して、機能が高い症例でも、本人の満足感が低い場合がある。今回、問診票を構成している「満足度」の合計点に着目し、どの機能評価が満足度に影響を及ぼすのかを明確にする事を目的とした。【方法】本研究はデータベースからの後方視的調査である。対象は2010年4月から2012年8月までに4病院でTKAを施行し、各評価時期において問診票に記載の漏れが無くかつ歩行可能な症例とした。各評価時期の症例数は、術前232例、術後3週331例、術後8週249例、術後12週233例であった。調査項目は、JOAスコア、BI、疼痛の有無、術側・非術側それぞれの膝屈曲・伸展可動域および膝屈曲・伸展筋力(kgf/kg)、5mMSW、TUG、QS回数の14項目とした。QS回数、TUGは各々2回測定し、その平均値とした。筋力はHand Held Dynamometer(以下HHD)、アニマ社製 μTAS-MT1を用いて、2回測定したうちの最大値を採用した。なお問診表の満足度7項目は以下の通りである。1)膝の状態2)趣味活動3)外出4)歩き姿5)睡眠6)膝以外の体の状態7)身体以外の生活の状態。それぞれの項目で、満足(5点)~不満足(1点)の5段階自己記入式であり、35点満点となっている。統計解析は問診表の満足度の合計点を従属変数として、上記14項目を独立変数とした重回帰分析を行い、問診表の点数に影響を与える機能評価の項目を検討した。統計解析ソフトはSPSS(ver.16)を使用した。【倫理的配慮】本研究は、本学の承認を受け、ヘルシンキ宣言に則り施行した。【結果】重回帰分析の結果、術前の偏回帰係数はQS回数0.41、5mMWS0.04、標準偏回帰係数はそれぞれ0.23、0.13、重相関係数(以下R)=0.38。術後3週の偏回帰係数はQS回数0.31、5mMWS0.07標準偏回帰係数はそれぞれ0.18、0.21、R=0.35、術後8週の偏回帰係数はQS回数0.24、5mMWS0.07、標準偏回帰係数はそれぞれ0.15、0.29、R=0.41、術後12週の偏回帰係数は疼痛-4.1、5mMWS0.07、標準偏回帰係数はそれぞれ-0.31、0.25、R=0.45であった。【考察】結果より満足度に影響を与える因子が抽出されたが、その相関は強いものではなかった。本評価表の「満足度」の7項目は、上記2)5)6)7)の様な、情意面や患肢以外を評価する項目が含まれている。これらは機能面とは直接的な関係性が薄いと予測され、その事が相関に影響を与える一因になったと考える。しかしながら、そのような設定項目にも関わらず、5mMWSとQS回数が複数の評価時期において抽出された事は興味深いと考える。QSはSSC運動として、4病院で共通に取り組んでいる評価及びトレーニングである。我々は第47回日本理学療法学術大会において、TKA患者のQS回数と10mMSWおよびTUGに相関が認められることを報告しQSの有用性を示した。今回の結果では術前から術後8週においてQS回数が、全評価時期において5mMWSが満足度に影響を及ぼしており、QSが数多く行えて、歩行速度が速ければ満足度を高める事が示唆された。また、術後12週において疼痛が満足度に影響を及ぼしており、疼痛が遷延化する事は満足度を低下させる事が示唆された。今回の結果より、TKA患者の主観的な満足度が機能面からも予測できうる事が示唆された。【理学療法学研究としての意義】満足度評価に対して、機能評価がどう影響するのかを検討した。満足度には情意面も含め、様々な要因が関係すると思われるが、MWSが速く、QS回数が多いTKA患者は満足度が高いことが示され、早期からこれらの機能を高めることは,患者の満足度向上に寄与すると予測される.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2012 (0), 48100681-48100681, 2013
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205572064128
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- NII論文ID
- 130004585136
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可