棘下筋の筋電図学的分析

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • 上・下部線維の作用の違い

抄録

【目的】<BR> 肩の障害に対するリハビリテーションを行う上で肩関節を安定させる働きを持つ回旋筋腱板の作用を理解し、筋力トレーニングを選択することは重要である。棘下筋は回旋筋腱板を構成する筋肉の一つであり、先行研究では外旋・水平外転の作用について筋電図学的研究がなされている。また棘下筋は棘下窩の中央より上部と下部でモーメントアーム長・作用の違いが生じ、上肢下垂位では上部で屈曲作用、下部で伸展作用をもつことが解剖学的研究により報告されている(Ackland,2008)。しかし筋電図学的研究により棘下筋上・下部線維の作用の違いを検討した報告はほとんどない。<BR> 本研究の目的は表面筋電図を用いて棘下筋上・下部線維の作用の違いを明らかにし、各線維に対する効果的な筋力トレーニングを検討することである。<BR>【方法】<BR> 対象は上肢・体幹に整形外科疾患の既往のない健常若年男性9名(年齢22.6±0.9歳、身長173.2±6.1cm、体重65.3±5.4kg)とした。測定筋は利き手の棘下筋とし、2個の表面電極を筋線維に平行に電極中心間隔20mmで貼付した。電極の貼付部位は肩関節90°外転位にて肩甲棘の内側端と大円筋起始部を結んだ線の上1/3また上2/3から肩甲棘に平行に引いた線と、肩甲棘の内側1/4から肩甲骨内側縁に平行に引いた線との交点を上部線維、下部線維とした。また測定部位は超音波を用いて表面に棘下筋以外の筋がないことを確認した。筋電図の測定にはNoraxon社製筋電計を使用した。測定は端座位で肘関節90°屈曲、肩関節内外旋中間位とし、上肢下垂位(以下1st肢位)での屈曲・伸展・内外転・内外旋運動、肩関節90°外転位(以下2nd肢位)での内外転・水平内外転・内外旋運動、肩関節90°屈曲位(以下3rd肢位)での屈曲・伸展・水平内外転・内外旋運動における3秒間の最大等尺性収縮時の筋活動を記録した。また1st~3rd肢位で肩関節45°内旋位(以下1stIR~3rdIR肢位)での外旋運動における最大等尺性収縮時の筋活動も記録した。これらの測定時、肩を挙上する際は被験者に合わせてテーブルを下に置き挙上による筋活動を少なくした。また1st肢位での外旋最大等尺性収縮時の筋活動を100%として正規化し、%MVCとして筋活動量を表した。<BR> 1st~3rd 肢位における各運動の上・下部間の筋活動量の比較はWilcoxonの符号付順位検定を行った。また上・下部における外旋運動の1st~3rd、1stIR~3rdIR肢位間の筋活動量の比較、そして外旋運動筋活動量の1st~3rd、1stIR~3rdIR肢位間の下部/上部比の比較はFriedman検定の後、Steel-Dwassの方法を用いて多重比較を行った。有意水準は5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR> 対象者には研究の内容を紙面上にて説明した上、同意書に署名を得た。なお本研究は本学倫理委員会の承認を得ている。<BR>【結果】<BR> 各運動の上・下部間の筋活動量を比較すると、2nd肢位での内転(上部29.7±13.0%、下部60.2±34.1%)・3rd肢位での外旋(上部58.2±17.1%、下部146.1±97.7%)で下部は上部より有意に高かった。1st肢位での屈曲(上部61.9±21.8%、下部66.8±26.7%)・伸展(上部35.3±14.7%、下部116.6±104.9%)では上・下部間に有意な差がみられなかった。<BR> 外旋運動の1st~3rd、1stIR~3rdIR肢位間の筋活動量を比較すると、上部では1st肢位(100±0.0%)が2nd肢位(70.5±20.0%)・3rd肢位・1stIR肢位(76.5±21.6%)・2ndIR肢位(49.7±20.7%)・3rdIR肢位(42.4±23.9%)より有意に高かった。下部では各肢位間に有意な差がみられなかった。また1st~3rd、1stIR~3rdIR肢位間の下部/上部比を比較すると、3rdIR肢位(2.33)は1st肢位(1.00)よりも有意に大きかった。<BR>【考察】<BR> 本研究において上・下部間の筋活動量は1st肢位での屈曲・伸展で有意な差はみられなかった。しかし、解剖学的研究により2nd肢位では上・下部ともに外転作用をもつと報告されているが2nd肢位での内転で下部が高かったことは、下部は上部よりも内転筋が生じさせる内転以外の運動を制御するように働いているなど作用の違いがあると考えられる。<BR> また上部の外旋運動では1st肢位での筋活動量が他の肢位より高く、筋力トレーニングとして効果的であることが示唆された。下部/上部比は3rdIR肢位が1st肢位よりも大きく、下部の選択的トレーニングを行う際には3rdIR肢位での外旋運動が効果的であることが示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究により筋電図学的研究においても棘下筋上・下部線維に作用の違いがあることが示された。また各線維に対する効果的な筋力トレーニングの方法も示された。今後は各線維の筋力を個別に評価できる方法を検討していくことが必要であると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), CbPI2264-CbPI2264, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572104320
  • NII論文ID
    130005017241
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.cbpi2264.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ