体幹肢位の違いが,肩軽度屈曲位において肩屈曲筋へ与える影響

説明

【目的】<BR> 臨床上、動作中の肩関節周囲筋の筋緊張が姿勢の変化に応じて増減することをしばしば経験するが、その詳細に関する報告は少ない。我々は第6回肩の運動機能研究会において、体幹屈曲位では体幹伸展位と比較して肩関節屈曲運動時に肩関節屈曲筋の筋活動が増大することを報告した。坐位での日常生活動作を想定すると、肩関節屈曲運動の他に肩関節軽度屈曲位での動作が要求される局面も多く認められる。そこで今回我々は、坐位での体幹肢位の違いが、肩関節軽度屈曲位における肩関節周囲筋の筋活動にいかに影響するか調査検討したので報告する。<BR>【方法】<BR> 対象は整形外科的、神経学的に異常のない健常成人24名(男性14名、女性10名、年齢27.2±4.4歳)とし、全て右側を測定した。測定機器にはノラクソン社製マイオトレース400(表面筋電計)を用い、マイオリサーチXP(EM-129TR)にてデータ収集を行った。測定筋は三角筋前部線維、棘下筋中部線維、僧帽筋上部線維とした。測定肢位は、端座位にて肩峰と大転子を同一鉛直上に位置させ肩関節周囲筋の脱力が得られる限りに体幹を屈曲した肢位(以下、体幹屈曲位)と、同様に肩峰と大転子を同一鉛直上に位置させ肩関節周囲筋の脱力が得られる限りに体幹を伸展した肢位(以下、体幹伸展位)の2肢位とし、肘関節伸展、肩関節内外旋中間位を規定した。運動課題として、各肢位をとらせた上で肩関節屈曲30°での屈曲位保持を行わせた。測定時間は3秒、測定回数は3回とし、得られた各測定筋の筋電積分値の平均値を計測した。尚、各肢位での測定は無作為に行った。統計学的検討には、t検定(一対の標本による平均の検定)を行い、有意水準は5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR> 本研究は、ヘルシンキ宣言に基づき、研究協力者には事前に研究の主旨を説明し十分に理解を得た上で研究の参加について同意を得て、実施した。<BR>【結果】<BR> 体幹屈曲位では体幹伸展位と比較して、三角筋前部線維、棘下筋中部線維、僧帽筋上部線維において筋電積分値が増加し有意差を認めた。<BR>【考察】<BR> 我々の先行研究では、体幹肢位は肩関節屈曲運動において筋活動を変化させるという結果であったが、本結果により体幹肢位は肩関節30°屈曲位での保持においても肩関節屈曲筋の筋活動変化を引き起こすことが明らかとなった。同一運動課題において、体幹肢位の変化がもたらす筋活動の増加は筋への負荷増大を意味すると考えられ、体幹屈曲位は三角筋前部線維、棘下筋中部線維、僧帽筋上部線維への負荷を増大させる非効率な肢位であることが推察される。坐位での日常生活動作において体幹屈曲位はいわゆる不良姿勢のひとつと考えられる。その姿勢で肩関節軽度屈曲位を保持して行う作業によって肩関節屈曲筋の筋活動は増大し、様々な臨床症状や障害の原因となる可能性が示唆された。本結果の背景としては、体幹屈曲位では肩甲骨は前傾位となって肩甲上腕関節の屈曲角度が増大し、三角筋前部線維、棘下筋中部線維の筋長が短くなることで筋長-筋張力の関係により多くの筋活動を必要としたことが挙げられる。また、体幹屈曲位で肩関節30°屈曲位を保持させると肩甲骨は内旋、下方回旋しやすく、骨頭求心位の保持や肩甲骨挙上のために棘下筋中部線維や僧帽筋上部線維への負荷が増大した可能性も考えられた。肩関節疾患を有する症例の理学療法においては、本研究の結果も踏まえて、作業環境やその際の体幹肢位も考慮し肩関節周囲筋へのアプローチを行っている。今後もさらに検討を進めていきたい。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 体幹屈曲位は体幹伸展位に比べ、肩関節30°屈曲位保持において肩関節屈曲筋の筋活動量を増大させることが明らかとなった。このように体幹肢位の変化が肩関節機能に影響を与えることを念頭におき治療を展開する必要があることが分かった。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), CbPI2268-CbPI2268, 2011

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572108032
  • NII論文ID
    130005017245
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.cbpi2268.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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