晒し骨の上腕骨後捻角は左が大きい

DOI
  • 高濱 照
    九州中央リハビリテーション学院理学療法学科
  • 壇 順司
    九州中央リハビリテーション学院理学療法学科

抄録

【目的】近年,野球選手の上腕骨後捻角(以下,後捻角)が測定され,投球側の後捻角が非投球側より大きいという発表が多くみられる.しかし,もともと利き手と非利き手の後捻角に差があるかどうかはわかっていない.そこで,今回晒し骨の後捻角を測定し,左右差について知見を得たので報告する.<BR>【方法】熊本大学大学院医学薬学研究部(以下,熊大医学部)が所有する上腕骨晒し骨60本(左右30対)を対象とした.晒し骨は全て日本人で,男性22名,女性8名であった.生年は明治生21名,大正以降生8名,不明1名であり,死亡年齢は26&#12316;82歳,平均58.9±16.3歳であった.測定方法は,生体の後捻角測定に使用するS&ouml;derlund法を参考にした.S&ouml;derlund法は,肩屈曲90°・肘屈曲90°の位置から20°ほど肩を水平外転した状態にして,前方からX線撮影し,肘関節窩と骨頭を同時に撮影する方法である.骨頭像の大結節側辺縁と小結節側辺縁を結んだ線への垂線を骨頭中心線とし,上腕骨滑車前方端および上腕骨小頭前方端を結んだ線(以下,肘関節窩線)を後捻角0°の基準として,骨頭中心線と肘関節窩線とのなす角を後捻角とする方法である.晒し骨では大結節側,小結節側ともに,骨頭辺縁に骨端線の痕跡による曲がり角があるため,その角にマーキングし,両マークを結んだ線への垂線を骨頭中心線とした.測定器具はカメラ用三脚・金属性角度計・ノギスを組み合わせて作製した.金属性角度計は片方の腕をノギスと接着し,三脚に固定した.可動部分のネジをゆるめて,他方の可動腕が重力により鉛直方向を向くようにした.晒し骨を水平なテーブルの上に肘関節窩線を下にして置くと,上腕骨は肘関節窩線の突出部2点と小結節の3点を支点として安定する.この置き方により後捻角は水平線と骨頭中心線とのなす角となる.測定器具では,骨頭辺縁の両マークをノギスで挟むと,鉛直を向く可動腕により角度計が後捻角を示すようにした.後捻角以外には,通常肩内外旋中間位の基準とされる上腕骨内外顆を結んだ線と肘関節窩線との角度も測定した(以下,内外顆線角).統計はt検定およびピアソンの相関係数を用いた.<BR>【説明と同意】熊大医学部の教授に目的・方法を説明し,許可を得て測定を行った.<BR>【結果】骨頭中心線は,棘上筋付着部の大結節上面と棘下筋付着部である大結節中面との境を通過した.内外顆線角は4.1±3.6であった.後捻角は26対が左が大きく,4対は右が大きかった.後捻角の平均は,男性右30.5±9.7,左34.0±8.3,女性右28.4±7.8,左35.0±6.7であり,男女とも有意に左が大きかった.男女間に差はなかった.全体平均では,右30.0±9.2,左34.3±7.8で有意に左が大きかった.左右とも死亡年齢と後捻角に相関はなかった. <BR>【考察】内外顆線角は平均4.1°であり,肘関節窩線を基準にしても後捻角に大きな差はないことがわかった.晒し骨の利き手に関する情報はなかったが,日本人の右利きは88%といわれており,今回の結果から,非利き手が利き手より有意に後捻角が大きいと判断してよい.右の方が大きかった4対は全体の13%にあたり,この割合から4対は左利きであった可能性も考えられる.Vernon(1945)はアメリカ白人89対の晒し骨で後捻角を測定し,左が有意に大きく,男女差はなかったと報告している.また骨頭中心線は大結節上面と中面の境を通る線としており、今回の骨頭中心線と同じである.骨頭は球体であるために骨頭中心線を決定する基準がない.生体を測定する方法としてX線,MRIなどを使った方法があるが,それぞれに骨頭中心線の位置が異なっている.肩の挙上では棘上筋と棘下筋が共同して働くことから,今回のように骨頭中心線が大結節上面・中面の境を通ることは合理的である.今回の結果は野球選手の場合と逆の結果だったが,測定した晒し骨は明治生まれが多く,生前に野球を経験した者はいなかったと推測される.したがって今回は,野球未経験者という条件では非利き手の方が利き手より後捻角が大きいと結論づけられる.利き手の方が小さい理由は不明であるが,男女間に差がないことから,成長過程や労働負荷の多寡,生活習慣などには関係なく,日常でよく使用されることで利き手と非利き手の後捻角に差が生じたことになる.しかし,年齢と後捻角に相関がなかったことから生得的に利き手の後捻角が小さいということも考えられる.<BR>【理学療法学研究としての意義】上腕骨晒し骨の骨頭中心線を提案するとともに後捻角の測定方法を考案し,今後の晒し骨測定の参考となった.一般に,利き手の方が後捻角が少ないことがわかり野球選手の後捻角を考察する上での参考資料となった.<BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), CbPI2202-CbPI2202, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572151936
  • NII論文ID
    130005017179
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.cbpi2202.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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