肩関節外転角度の違いによる肩関節最大外旋角度の変化

説明

【目的】投球障害肩を有する選手が投球時に症状を訴える位相は、コッキング後期から加速期が多い。この位相では肩関節に過度の外旋運動が必要となり、肩関節へ大きなストレスが加わっているためと考えられる。このような選手に対して、肩-肩-肘ラインを基準として肘の位置を確認し、肘下がりの場合は肘の高さを修正することで症状が軽減するケースがある。しかし、肘下がりでも症状を訴えない選手も多く存在する。また、肘下がりが肩関節外旋角度を減少させることは周知の事実だが、肘の高さの違いによる肩関節外旋角度を測定した報告は少ない。本研究の目的は、肩関節外転角度の違いによる自動での肩関節最大外旋角度(以下:外転位外旋角度)の変化を調査し、肘下がりと加速期における投球障害肩との関係について明らかにすることである。<BR><BR>【方法】対象は、測定時に肩関節や肘関節に疼痛の訴えがない高校野球選手24名で、平均年齢は17.4±0.6歳であった。測定肢位は立位での肩関節外転80°、90°、100°の3条件において、それぞれ肩関節内外旋中間位、前腕中間位から上腕を外旋方向に誘導し、肩関節外旋自動運動を行わせた。測定方法は前腕長軸方向に水平角度計をあて、前腕と水平線の成す角度を外転位外旋角度として求めた。なお、各条件の測定はランダムに実施した。測定した肩関節外転80°、90°、100°の3群における外転位外旋角度を、一元配置分散分析および多重比較検定を用いて比較検討した。<BR><BR>【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、対象者に対して研究の目的を説明し、同意を得た上で研究を行った。<BR><BR>【結果】外転位外旋角度は、肩関節外転80°では平均132.1±10.9°、肩関節外転90°では平均138.5±10.9°、肩関節外転100°では平均142.9±12.7°で、肩関節外転角度が低下するほど減少した。また外転位外旋角度は、肩関節外転80°と100°の間に有意差が認められたが、肩関節外転80°と90°、90°と100°の間には有意差が認められなかった。(p<0.01)<BR><BR>【考察】本研究の結果、肩関節外転角度が低下し、いわゆる肘下がり肢位になると外転位外旋角度も減少する傾向が認められた。野球経験者では主に肩甲骨の後傾によって外転位外旋角度が増大するとの報告を考慮すると、肘下がり肢位と肩甲骨の後傾角度との間にも、何らかの相関があると考えられる。<BR>肘下がりが肩甲骨の後傾を阻害する要因として、肩関節外転角度の低下に伴う肩甲骨下方回旋の増加が挙げられる。本研究では肩甲骨の運動については評価していないため、今後、肘下がりと肩甲骨機能の関係について明らかにしていきたい。<BR>我々は高校野球選手を対象とした調査で、立位における自動最大2nd外旋角度(以下:2nd外旋角度)が、障害のない選手は全例120°以上であるのに対し、投球動作の加速期で肩痛を訴える選手の半数以上が120°以下であることを報告し、加速期での障害を回避するためには120°以上の2nd外旋角度を獲得することが重要であると考察した。今回の結果では、肩関節外転80°での外転位外旋角度は平均132.1°であり、疼痛の訴えがない選手に関しては、肩関節外転角度の低下が10°程度の肘下がりであれば、120°以上の外転位外旋角度が保持できていることがわかった。今後は肩関節外転80°以下の顕著な肘下がりでも疼痛の訴えがない選手を対象に、外転位外旋角度を調査していきたい。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】今回の結果から、肩関節外転角度の低下(いわゆる肘下がり)により外転位外旋角度の減少が起こることが明らかとなった。肘下がりによる外転位外旋角度の減少が、肩関節投球障害につながる有害な力学的負荷の一因である可能性を念頭に置いて、理学療法を進めていくことが重要である。一方、軽度の肘下がりでは、外転位外旋角度の減少にあまり影響がないことも示唆された。肘下がりの許容範囲、肘下がりと肩甲骨機能との関係などについて、今後も調査検討する予定である。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), CbPI2201-CbPI2201, 2011

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572155776
  • NII論文ID
    130005017178
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.cbpi2201.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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