ストレッチポールエクササイズが肩関節挙上角度と肩甲骨周囲筋に与える影響

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【目的】<BR> 上肢挙上動作の中で、僧帽筋下部線維は主に後期に活動することは一般的に知られている。臨床上、上肢自動挙上において、僧帽筋下部が十分に機能していない症例を多く観察する。このような症例に対し、脊柱や肩甲骨のアライメント改善を目的としたアプローチをすることで、上肢挙上動作が改善することは少なくない。<BR> これまで我々は、静的・動的(挙上動作)状況下での、健常人における肩甲骨のアライメント及び肩甲骨周囲筋の筋活動を測定し、比較検討してきた。<BR>これら研究の中で、健常人においても僧帽筋下部の筋活動が十分に発揮されていない者が観察され、この原因の仮説のひとつとして、胸椎・肩甲骨のアライメント不良といった姿勢による影響を考えた。<BR> ストレッチポール(以下SP)使用による胸腰椎のアライメント変化に関する報告が散見され、また本学会での石川らも、SP使用により前額面及び矢状面上の肩甲骨のアライメントが変化したことを報告している。 <BR>本研究の目的は、SPエクササイズ前後での肩甲骨周囲筋の筋力と肩関節自動屈曲可動域を計測し、SPの使用が僧帽筋下部を中心とした肩甲骨周囲筋の筋出力に与える影響を調査することである。<BR><BR><BR>【方法】<BR>対象は、健常成人11名21肩、男性7名女性4名、平均年齢28.64±6歳であった。測定時、肩に疼痛を有する者及び、肩は除外した。<BR>SPエクササイズ前後に肩関節及び肩甲骨周囲筋の筋力測定と肩関節自動屈曲可動域の測定を行った。<BR>筋力測定には、アニマ社製等尺性筋力計μTas F-1を使用し、新・徒手筋力検査法第7版に準じ、(1)肩関節屈曲 (2)外転 (3)肩甲骨面挙上 (4)外旋 (5)肩甲骨外転と上方回旋 (6)肩甲骨内転 (7)肩甲骨下制と内転を測定した。<BR>測定は各3回行い、その平均値を採用した。測定は、測定手技に熟達した同一検者が行った。得られたデータは、体重で除した値を用いた。<BR>肩関節自動屈曲可動域測定には、ゴニオメーターを使用した。<BR>SPエクササイズには、日本コアコンディショニング協会が推奨しているベーシックセブン(以下B7)を使用した。今回使用したB7は、被験者にパンフレットを配布し、エクササイズ方法を十分に理解したことを確認した後、セルフエクササイズとして施行した。<BR>B7前後での筋力と可動域の比較の統計学的分析には、t検定を用いた。有意水準はp<0.05とした。<BR><BR><BR>【説明と同意】<BR>本研究への参加について説明書および同意書を作成し、研究の目的、進行および結果の取り扱いなど十分な説明を行った後、研究参加の意思確認を行った上で同意書へ署名を得た。<BR><BR>【結果】<BR>筋力:肩甲骨下制と内転のみ、実施前平均0.034±0.013kgfから実施後0.040±0.001kgf(p<.05)と有意な増加を認めた。<BR>肩関節自動屈曲可動域:実施前平均169.37±8.67°から実施後173.49±7.54°(p<.05)と有意な増加を認めた。<BR><BR>【考察】<BR> これまで、B7の効果として、大・小胸筋・股関節内転筋・内外腹斜筋・腸腰筋・股関節屈筋群の伸張、胸鎖関節のモビライゼーション、肩甲骨の内転・外転・上方回旋・下方回旋の誘発、肩関節周囲の軟部組織のリラクセーション、胸椎への振動によるリアライメント等が述べられている。また、本学会での石川らの報告や諸家らの報告などより、B7後に肩甲骨は、内転方向へ偏位することが確認されている。<BR> 今回のB7後の変化として、僧帽筋下部の有意な改善と肩関節自動屈曲可動域の有意な改善を認めた。これは、B7によって、肩甲骨が内転位へ偏位し、身体後面の筋群、特に僧帽筋下部の筋機能改善を導いたこと、上肢挙上に必要な胸鎖関節の可動性が改善したこと、挙上時に必要な肩甲骨運動の再教育、胸郭のリアライメントによる姿勢変化などが関与し、僧帽筋下部の筋力と肩関節屈曲自動可動域の改善に繋がったものと考える。<BR> 本研究の限界として、筋力評価が等尺性収縮での評価であること、静的姿勢での僧帽筋の筋活動変化や動作時の筋活動変化を捉えていないことがある。今後、筋電図学的評価を加えることで、SPエクササイズのより科学的な効果を検証していきたい。<BR><BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>肩関節に障害を有している症例を、臨床上で我々が対象とする事は多い。それら障害を治療していく上で、障害を受けている関節だけを捉えるのではなく、全身からその障害原因を捉えていくことは、非常に有益なものであると考える。今回の結果は、運動連鎖の観点からも今後の理学療法の発展に貢献できるものと考える。

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