ハムストリングスに対する伸張法の検討
書誌事項
- タイトル別名
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- ストレッチと独自の伸張法(筋腱移行部伸張法)の比較
説明
【目的】<BR> 理学療法領域において,関節可動域(以下ROM)改善を目的とした筋に対するアプローチとしてストレッチは良く知られている.中でもスタティック・ストレッチはIb抑制を利用した方法で柔軟性の改善には安全かつ効果的な方法として知られている.しかし,井上らは,ストレッチは力をどのように加えていくかが重要となると述べており,筋に対する伸張の程度や方向の考慮などセラピスの経験や技術に影響されると考えられる.そして,腰痛部疾患患者においてハムストリングスの短縮を呈する症例においてストレッチを実施する際に疼痛が原因となり十分なストレッチを実施する事が困難な場合を経験することがある.この場合に内側ハムストリングスと外側ハムストリングスを把持し坐骨結節方向に伸張を加えつつ内・外側に伸張ストレスを加えることにより股関節屈曲(Strait leg raising:以下SLR)角度の改善を経験することがある.特に半膜様筋は脛骨に付着し鵞足を形成するだけでなく,膝関節の後内側の支持機構(半膜様筋角)として重要であり,付着部が多岐にわたることは一般的に知られている.そこで今回,ハムストリングスのストレッチとしてSLRによる他動的伸張と背臥位で膝関節軽度屈曲位とし半腱・半膜様筋の付着部付近を把持し坐骨結節方向に伸張を加えながら半膜様筋の付着部の多様性を考慮しつつ内・外側に伸張ストレスを加える独自の伸張方法(以下:筋腱移行部伸張法)を健常者に対し実施し改善効果を比較検討したので報告する.<BR>【方法】<BR> 本学在籍中の学生22名(男性11名,女性11名,年齢21.8±0.3歳)を対象とした.なお,研究を実施するにあたり,中枢神経疾患,整形外科疾患を有するものや,身体に疼痛などの自覚症状を有するものは除外した. <BR>検者となる本学在籍中の臨床実習を終了した4年生2名に対し,ハムストリングスに対するストレッチと筋腱移行部伸張法を十分に練習させた.なお,この際に2種類の方法において期待される効果に関しては学生に伝えずに実施した.<BR>被験者の開始姿勢は治療台上の背臥位とした.次にゴニオメーターを用いSLRの角度を計測した(以下:施行前).その後,右側の下肢にハムストリングスのストッレチを1分間実施し,左側の下肢に独自の伸張法を1分間実施した.なお,この2種類の伸張はランダムに実施した.伸張法の終了後,再度ゴニオメーターを用いてSLRの角度を計測した.さらに,施行前を基に伸張後の値を正規化し改善率を比較した.<BR>分析は,施行前の左右の比較,ストレッチと筋腱移行部伸張法の改善率の検討は独立2群におけるT検定を実施し,各群の施行前と施行後の改善効果の検討は対応のあるT検定を実施した.<BR>【説明と同意】研究に関しての趣旨および危険性について口頭で十分な説明を行い同意の得たものを対象とした.<BR>【結果】<BR> 施行前におけるSLRはストレッチを実施する側は73.0±16.3°であり,筋腱移行部伸張法を実施する側は70.0±16.8°であり有意差を認めなかった.ストレッチ後のSLRは77.5±15.2°であり,筋腱移行部伸張法後は79.8±17.6°であり両群において施行前に比べ有意な改善を認めた(P<0.01).さらに,施行前を基に改善率を比較した結果,ストレッチ後の改善効率は7.1±7.6%であり,筋腱移行部伸張法後の改善率は14.6±6.0%であり筋腱移行部伸張法がストレッチに比べ有意な向上を認めた(P<0.01).<BR>【考察】<BR> ストレッチ後および筋腱移行部伸張法後において施行前に比べ有意な改善を認めた.さらに,改善率の比較において筋腱移行部伸張法がストレッチに比べ有意な向上を認めた.<BR> ストレッチはIb抑制を利用した方法で筋の伸張性改善に有効である事は一般的に知られており本研究においても有意な改善が得られた.筋腱移行部伸張法においも施行前と比較し有意な改善を認めたことから伸張性の改善に効果的である事が示唆された.さらに,筋腱移行部伸張法がストレッチに比べ有効であったのは,ストレッチは関節運動を通して筋繊維を伸張しゴルジ腱器官を刺激しIb抑制による生理学的背景を利用した伸張法であるのに対し,筋腱移行部伸張法では半膜様筋の多方向の停止部に対し効率的に刺激を加えられた可能性があり,筋の伸張によるストレッチの効果だけでなく半膜様筋の停止腱を介して膝窩筋の筋膜や半膜様筋が停止する靭帯付近の筋膜に対し影響を及ぼした可能性が考えられる.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 理学療法領域において柔軟性の改善に関してストレッチは一般化されている.しかし,ストレッチの方法や効果は確立されておらず治療効果を向上させる為に更なる検討が必要であると考えられる.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2010 (0), CbPI2235-CbPI2235, 2011
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205572182528
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- NII論文ID
- 130005017212
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可