身体像の変容がうかがわれたTHA患者(特発性骨頭壊死症)の治療経験

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タイトル別名
  • 疼痛軽減や運動学習に難渋した一症例

抄録

【目的】<BR>局所の疼痛や筋アライメントの変化は体性感覚・固有感覚の受容性を変化させ、身体図式・身体像の形成や全身の姿勢筋緊張・運動パターンに影響を与えると考えられる。今回、特発性大腿骨頭壊死症から人工股関節全置換術(以下THA)を施行された症例を担当した。本症例は、術後も片麻痺患者のように起居動作時は非術側下肢で術側下肢を操作し、歩行器での歩行が可能なレベルになっても手で介助して足部を車椅子フットプレートにのせるなど術側下肢を自分の意志で動かすことを避けていた。また、他動運動時や立位荷重時に術側股関節の運動が認識されると頚部・体幹の伸展など過敏な逃避的反応が生じ、術側への重心移動や荷重、歩行獲得に難渋するケースであった。姿勢筋緊張・アライメントの調整や正常運動パターンの促通さらに身体像の観点からアプローチを展開し、独歩獲得に至ったので、若干の考察を加え報告する。<BR>【方法】<BR>症例紹介:30代男性。H20秋より右股関節疼痛出現し、H20.12月に特発性大腿骨頭壊死症と診断された。H21.1月末には右下肢を引きずるようになったため、両松葉杖を使用し右下肢は免荷状態であった。H21.6月頃から疼痛が増悪し、外出困難となったため、7月末に右THA施行された。術後は当院クリティカルパスに従い、術後2日より全荷重にて理学療法を開始し、術後93日で自宅退院のはこびとなった。<BR>介入内容:1)殿筋・梨状筋・大腿筋膜張筋を中心とした股関節周囲筋の筋スパズムに対し、高周波電気刺激療法とダイレクトストレッチによる筋緊張調整を行い、筋の順応性を高めた。2)他動的な関節副運動から関節の位置や運動方向の認識を促し、術側下肢の自動運動での正常運動パターンの促通を図った。3)頚部・上部体幹の伸展での代償運動を抑制した状態で体幹の固定性と四肢の運動性を端坐位・立位重心移動にて促した。<BR>【説明と同意】<BR>本症例とご家族には本研究の十分な説明を行い、書面にて同意を得ている。<BR>【結果】<BR>疼痛・歩行・ADL動作の変化<BR>術後4週では安静時に股関節外側~鼡径部での疼痛(Visual Analog Scale以下VAS 7/10)を訴え、片側腋窩中等度介助にて杖歩行30m可能であった。歩容は術側への荷重が極端に少なく、体幹は非術側へ偏位。術側立脚期では股関節・膝関節屈曲位、足関節底屈となり、全足底接地は困難であった。体幹の矢状面での動揺が大きく、体幹後方傾斜にて術側下肢を振りだす歩容であった。起居動作時は非術側下肢で術側下肢を操作し、症例に座位で膝関節伸展を指示すると“どう動かすのかわからない”といった反応であった。<BR>術後7週では局所の股関節痛は荷重時に鼡径部上部にのみ出現していた(VAS 5/10)。杖歩行が監視下レベルとなり、術側立脚期での股関節・膝関節の伸展位保持が出現し、全足底接地が可能となった。しかし、矢状面での体幹動揺は残存し、特に術側立脚期後方への体幹動揺が起こり、頭部・上部体幹での伸展による代償反応が残存していた。また、SLRなど一部の運動方向への自動運動が意識的に行えるようになり、車椅子フットプレートに自分の足の動きだけで足部をのせられるようになった。<BR>退院時では、局所の股関節痛は長時間運動後のみ出現し(VAS 4/10)、屋内独歩・屋外杖歩行自立レベルまで改善した。歩容は体幹の動揺は減少し、上肢の振りも若干ではあるが出現するようになった。術側下肢をかばうような行為は見られなくなり、側臥位での股関節外転などあらゆる運動方向への自動運動が随意的に行えるようになった。<BR>【考察】<BR>本症例は術前約半年間、疼痛から術側下肢免荷状態が続き、術側股関節を含む下肢運動が変容していたと考えられる。“手術前は動かすとただただ痛く、動かしたくなかった。右足は他人の足のように重かった”という本人の話からも、術側股関節を動かすと疼痛が生じるといった身体像が形成され、術後もそれが残存していたと考えられる。手術により股関節の疼痛が消失したにもかかわらず、不動により生じた強力な筋萎縮・筋スパズムが術前の身体像を優位とさせていた。また、本症例は精神的にも逃避的・内向的な一面があり、セラピストの感覚入力に対し自発的な反応は少なく、過敏性・防御的な反応が優位に見られた。性格的な一面も身体像の再構築の遅延に影響していたと思われる。しかし、治療介入の中で、筋委縮・筋スパズムへのアプローチを徹底的に行うことで鈍化された体性感覚・固有感覚情報入力を活性化させ、身体図式のリアルタイムでの統合を促通し、身体像の再構築を図ることができたのではないだろうか。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>臨床の立場から局所の形態的な変化だけでなく、生理学的あるいは神経科学的知見を参考に、症例の反応やアプローチの経過を分析すること非常に意味のあることである。<BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), C4P3146-C4P3146, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572215296
  • NII論文ID
    130004582528
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.c4p3146.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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