Marchiafava-Bignami症候群に対する理学療法の経験

書誌事項

タイトル別名
  • ─独歩可能となった一例における臨床経過─

説明

【はじめに、目的】 Marchiafava-Bignami病(以下MBD)はアルコール多飲者や栄養障害者に生ずる脳梁の脱髄壊死を主病変とする疾患で、原因は未だ不明である。大脳白質など脳梁以外にも病変を認める例もあり、多彩な症状を呈す。従来は死亡率が高く予後不良といわれたが、最近ではMRIにより早期診断が可能となり、生命予後は悪くないことが明らかとなっていきている。しかし、MBDのリハビリテーションに関する報告はほぼ見当たらない。今回、アルコール多飲歴がなく、脳梁病変が脳梁全域ではないことからMarchiafava-Bignami症候群(以下MB症候群)と診断された50歳代女性の理学療法を経験したので報告する。〈BR〉【症例(紹介)】 症例は56歳、女性。入院前ADL自立。2011年 6月19日、呼びかけに応じずベッド上で失禁し横になっていたところを発見され、同日当院救急搬送となった。急性経過の意識障害と画像所見よりMB症候群と診断された。既往にII型糖尿病があり、インスリン自己注射していたがコントロール不良であった。治療はビタミンB1、葉酸投与等が行われた。〈BR〉【説明と同意】 報告の主旨を本人に説明し同意を得た。〈BR〉【経過】 入院7日後よりPT開始。意識障害(JCSII-10)、右優位の四肢弛緩性運動麻痺(MMTは右上肢1~2、右下肢2、左上下肢3)を認め、基本動作は全介助を要した。FIMは19点。病態の予後予測が困難であったため、病態や症状を見据えつつ、当面の目標に基本動作の再獲得を挙げ、離床を促すとともに、随意運動の促通、基本動作練習を中心に施行した。PT開始1週後には、JCSI-2~II-10で、運動麻痺はMMTにて右上下肢3、左上下肢4と改善。起居動作が軽介助で可能となり、歩行は連続100m可能となったが、右前足部の躓きが散見され軽介助を要した。歩行時の躓き軽減を目的とした練習を追加。PT開始2週後には、JCSI-1、MMTは右上下肢3~4と改善認め、歩行は無杖見守りで可能となり、階段昇降練習を開始。また、意識障害改善に伴い超皮質性伝導失語、脳梁離断症状を中心とした高次脳機能障害を有することが明らかとなった。PT開始3週後には意識清明で階段昇降が可能となったが、座位、立位姿勢により除脈、血圧低下、眩暈を示すようになった。主治医の指示および日本リハビリテーション医学会のガイドラインの中止基準に従い、介入を継続。その間、自律神経障害に対する投薬も行われた。PT開始4週目以降は上記症候消失し、病棟歩行自立した。PT開始5週目、右股関節周囲優位の筋力低下は残存(右股関節周囲MMT3)したが、基本動作は全自立。Timed“Up and Go”testは8.72秒。ADLはFIM107点。内科治療終了し、リハビリテーション目的に転院となった。転院3ヵ月後、右下肢に軽度筋力低下残存(右股関節周囲MMT4)したが、日常生活上の動作能力は獲得された。しかし、高次脳機能障害により服薬管理や外来通院には介助を要する状態である。なお、MRIは入院時、脳梁体部から膨大部、両側放線冠(左>右)に異常信号を認めた。経過に伴いこれらの異常信号は軽減したが、転院5日前のMRIにて脳梁、放線冠の異常信号は一部残存した状態であった。〈BR〉【考察】 本症例は、発症早期には意識障害、四肢弛緩性運動麻痺を呈し、基本動作全般に全介助を要する状態であったが独歩可能となるまでに改善した。近年MBDは発症後早期に治療を開始することで、病変、症状が可逆的であることが報告されている。本症例においても内科的治療後、MRIにて病変の縮小を認めた。早期からの離床により、廃用症候群の予防、臥床に伴う合併症予防が図れ、病態の改善に伴う機能向上、能力拡大を円滑に達成することができたと考えられる。一方、経過の中で、座位・立位姿勢による自律神経障害様の症候が認められ、リスク管理が重要となった。自律神経障害はMBDに非特異であり、コントロール不良の糖尿病も合併していることから、はっきりとした病態の解釈は困難であったが、早期離床にはリスク管理が重要となることが考えられた。また、高次脳機能障害、右下肢筋力低下を中心とした機能障害は残存している。これは、画像上の責任病変の症候と一致しており、その為に生じていると考えられる。社会復帰に際しては高次脳機能障害がADL上課題となり、多職種による包括的な関わりが重要となった。〈BR〉【理学療法学研究としての意義】 希有な疾患であり予後推定、アプローチに難渋した。今後、同様の症例を担当する療法士の一つの先行資料として活用されることを期待する。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Bf0852-Bf0852, 2012

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572305536
  • NII論文ID
    130004692859
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.bf0852.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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