パーキンソン病のリズム障害に対するノルディックウォーキングの効果
説明
【はじめに、目的】 ポールを使用して歩行するNordic Walkig(NW)は、リハビリテーションとして取り入れられ、パーキンソン病(PD)の歩行障害に対し処方されている。我々は、第6回日本理学療法士協会神経系理学療法研究部会学術集会で、それまで前方優位だった荷重がNW直後に減少し、NW実施前に比べて両側踵接地時の圧が増加したことを報告した。NW実施直後で踵による制動力が生じ、足底圧が後方から前方へスムーズに移動可能となることで安定した歩行の前方推進に寄与すると考察した。今回、PDの歩行障害を反映すると考えられる歩行リズムに焦点をあて、NWを一定期間継続したPDの歩行リズム障害への効果を検討した。【方法】 対象は健常者8名(平均年齢39.7±21.0)と、PD患者8名(平均年齢71.3±5.1、Hoehn&Yahr stage II~III)であった。PD患者はNWを2~4週間実施し、足底圧、Unified Parkinson’s Disease Rating Scale(UPDRS)PartII、III、6分間歩行距離(6MD)、10m歩行、Timed Up and Go test(TUG)をNW導入前後で評価した。足底圧力計は、ひずみゲージ式荷重変換器(NEC三栄社製9E01-L42-500N)を、両側の踵骨隆起内側突起部、第3中足骨遠位端、母趾中央の計6点に固定し、9mの直線路を歩行した。圧センサーからの出力信号は、増幅器と200Hzローパスフィルタを介しレコーダー(TEAC社製LX‐10)に記録した。サンプリング周波数は250Hz、解析箇所は歩行の開始および終了の前後各2mを除いた5m区間とした。解析指標として、センサーの第1接地から、次の他肢の第1接地までの時間を測定した。この時間をStep to Step(STP)と定義した。このSTP時間について(1)健常群とPD群、(2) PD群におけるNW実施前後のF検定(P<0.05)を行った。また(3)PD群のNW実施前後のUPDRS、6MD、10m歩行、TUGについては、対応のあるT検定(P<0.05)を用いた。NW導入期間中は投薬変更や他の治療は行わなかった。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には実施内容と研究の趣旨について書面および口頭にて十分な説明を行い、同意を得た。【結果】 すべての対象者で第1接地点は踵部だった。(1)健常群のSTP値の平均は456~546.4ms、SDは5~14.6ms、PD群では平均465.3~538.3ms、SD24.6~52.6msだった。平均値に有意差は無かったが分散(SD2)では有意差を認めた。(2) PD群のNW導入前後におけるSTP値について、NW前はSDが24.6~52.6msであったが、NW継続実施後は10.7~25.5msとなり7名で有意差を認めた。平均値に差はなかった。(3) UPDRSのPartIIは平均2.8点、PartIIIは平均6.8点改善し、有意差を認めた。6MDはNW前後で有意差がなかった。10m歩行は平均1.0秒、TUGは平均4.9秒の短縮を示し6名で有意差を認めた。全ての項目で有意差がなかったのは1名だけだった。【考察】 STP値は各ステップ間の時間を示すものである。これ自体は歩行速度や歩幅などの因子に影響を受ける。また、PDでは歩行率の増減が歩行リズムの速度変化を招くといわれており、STPの平均値では群間比較や介入効果を反映できない。一方、STP値の分散が小さく一定であるということは、歩行リズムが一定であることを意味する。NWを一定期間実施することで、STP値の分散が小さくなったことは歩行リズムが改善したと考えられる。同時にパフォーマンスも改善した。全ての対象者は自然歩行中にarm swingを認めていたが、全項目で有意差を示さなかった1名は、ポールを持ち歩行すると下肢に対する上肢の交互運動が乱れ不自然な腕振りとなった。これに対し他の対象者は、全てNW中にリズミカルな上下肢交互運動が可能だった。PDでは脊髄反射は保たれると考えられており、NWのポール使用で上肢の運動が強調され、末梢からの感覚入力が求心性刺激となって四肢間反射が誘発された可能性が考えられる。今後、リズム障害が顕著なPDに対しNWが与える影響を検討するとともに、NW中に上下肢の交互運動が乱れる患者についての検討も必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】 NWはPDの歩行障害に対し有用な手段である。PDの歩行障害に対する理学療法的アプローチは多々あるが、本研究は、その選択肢を広げ個別的リハビリテーションに寄与するための研究であり意義がある。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2011 (0), Be0017-Be0017, 2012
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205572377344
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- NII論文ID
- 130004692843
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可