在宅脊髄損傷者の褥瘡発生要因と生活状況の現状調査
説明
【はじめに、目的】 脊髄損傷者が在宅復帰後に健康的な生活を送るためには合併症予防が必須である。合併症の中でも褥瘡は様々な要因が関連して発生し、効果的な予防プログラム作成が必要である。本研究の目標を在宅脊髄損傷者の褥瘡予防プログラム開発の基礎資料作成とし、褥瘡が発生してしまった脊髄損傷者を対象に聞き取り調査を行い、発生要因と生活状況の現状を調査した。【方法】 研究デザインは横断研究である。対象は2011年1月から10月までに褥瘡の治療目的で神奈川リハビリテーション病院に入院した脊髄損傷者24名とした。褥瘡の治療後に構造化した質問用紙を用いて聞き取り調査とカルテ検索を行った。観血的治療の場合、座面接触圧(以下座圧)計測を可能な限り術前に実施し、術前に実施できない場合は術後に実施した。保存的治療の場合は褥瘡治癒後に車いす乗車可能となった段階で実施した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は神奈川リハビリテーション病院倫理委員会の承認を得た。聞き取り調査前に文書と口頭で対象者に説明し、同意を得た。【結果】 対象者の属性は以下の通りであった。損傷部位は頸髄6名、胸髄16名、腰髄2名。ASIA impairment scaleはAが20名、Bが3名、Cが1名。平均年齢は53.3±14.8歳、受傷からの平均月数は271.3±170.5ヶ月。性別は男性20名、女性4名。褥瘡発生部位は合計27部位で坐骨13、仙骨5、尾骨、大転子がそれぞれ4、恥骨が1だった。褥瘡の評価が実施できたのは24部位で、評価はDESIGN-Rで行い、平均29.5±12.7点だった。褥瘡の既往歴はありが20名、なしが4名だった。褥瘡発生原因の有無は思い当たる原因ありが16名、なしが8名だった。原因については移乗時の転落、激突が5名、クッション不具合が3名、普段と異なる生活が2名、長時間座位が2名、除圧が十分にできなかったが1名、体調不良後が1名、ベッド上体位変換不十分が1名、爪で傷をつけてしまったが1名だった。思い当たる褥瘡発生原因なし8名のうち、体調不良があったものは3名だった。また問診から発生原因を推測できたものは2名で、浴室での褥瘡対策なしが1名、褥瘡再発による骨突出が1名だった。結果的に原因がまったく分からないものは3名だった。使用している車いすクッションの材質は空気室構造(ウレタンとの混合含む)が19名、ゲルが3名、ウレタンが4名だった。車いす上での除圧方法はプッシュアップが21名、前傾3名、側屈1名、ベッドに上がる1名、姿勢変換2名だった。除圧動作を意識して行っているかは意識しているが8名、しびれで行っているが1名、意識しては行っていないが13名、不明が2名だった。車いす乗車時間は平均12.1±4.5時間だった。座圧は有効なデータを得られたのは17名で、そのうち術前に計測できたのは11名、保存療法後の計測が1名、術後に計測したのは5名だった。座圧は最大圧力が平均149.4±34.7 mmHg、接触面積が平均1193.8±290.7cm2だった。リスクアセスメントスケールはSCIPUSが平均6.1±2.0点、ブレーデンスケールが平均15.8±1.2点だった。以上のほか、就労の有無や定期的に通っている場所の有無、便座、浴室、自動車といった座位環境の褥瘡対策有無などについて調査した。【考察】 褥瘡発生原因は本人が記憶しているものが全体の66.7%、問診から推測できたものが20.8%で、全く推測不能なものが12.5%だった。この結果より87.5%が原因推測可能だったことが分かる。今後褥瘡予防策を考えていく上でこれらの原因についてひとつずつ対策を考えていくことが有効と考えられる。発生原因から車いす座位環境を整えるだけでなく、移乗について安全性を高める必要があると考えられる。車いすクッションは空気室構造が多数だった。空気室構造は除圧性能に優れているとこれまでに報告されているが空気量の調整が必要で、適切な調整ができているかの確認も必要と考えられた。除圧動作はプッシュアップが多数だったが、半数以上が除圧動作を意識して行っていなかった。除圧動作についても今後再考する必要があると考えられる。座圧と車いす時間、そしてリスクアセスメントスケールは今後褥瘡を発生していない脊髄損傷者とデータを比較して議論する必要がある。【理学療法学研究としての意義】 脊髄損傷者の褥瘡発生要因や予防対策はこれまでに複数述べられているが、現実には褥瘡発生する脊髄損傷者が後を絶たない。新たな褥瘡予防策を立案するための基礎資料として本研究は意義があると考える。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2011 (0), Be0022-Be0022, 2012
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205572384896
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- NII論文ID
- 130004692848
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可