車いす座面シートのたわみが駆動に与える影響

DOI
  • 高野 利彦
    介護老人保健施設うららリハビリテーション科

書誌事項

タイトル別名
  • 第1報

抄録

【目的】<BR> 臨床の場面において,車いす駆動が困難となっている患者・利用者は少なくない。車いす駆動を阻害している一因として,車いす座面シートのたわみが影響していると考えられる。木之瀬は骨盤が後傾した滑り座りになるのは、車いすのスリングシートの影響が大きいとし,車いすの駆動にも悪影響を及ぼすと述べている。車いす座面シートのたわみによる悪影響については上記のものを含めいくつかの先行研究があるが,たわみと車いす駆動についての研究は1つであった。<BR> そこで本研究では,車いす座面シートのたわみと車いす駆動速度,殿部のずれについて調査し,車いす座面シートのたわみが車いす駆動に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。<BR>【方法】<BR> 当施設職員10名(平均年齢27.6±3.2歳,男性8名28.0±3.5歳,女性2名26.0±2.0歳)。同一の普通型車いすとクッション,ベニヤ板を使用した。まずクッションを敷いた普通型車いすに乗車してもらい,上肢長(肩峰~中指先端),ずれの距離(以下ズレ量)を測定後,10m程度の駆動の練習を1回行なってもらった。次に浅沼らの車いす駆動能力評価を用い,キャスターをスタートラインに接地させた時点から5m先のゴールラインにキャスターが接地した時点までの所要時間をストップウォッチで計測した。その際,両上肢で全力で駆動してもらい,所要時間,ズレ量を3回測定した。その後3分間の休憩を入れ,ベニヤ板とクッションを敷いた普通型車いすで上記の測定を行なった。<BR> ベニヤ板の有無は、どちらを先に行なうかは被検者毎に変更し行なった。<BR> 統計処理は,ベニヤ板の有無それぞれの駆動速度の平均値を出し,比較をWilcoxon符号付順位和検定にて行った。また,ベニヤ板の有無それぞれのズレ度の比較をWilcoxon符号付順位和検定にて行った。なお,統計学的有意水準は5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR> 本人に対し,本研究の目的と内容を説明し同意を得たのち実施した。<BR>【結果】<BR> ベニヤ板無しの普通型車いすの重量は13.2kg,ベニヤ板有りの重量は13.8kgであった。車いす駆動速度は,ベニヤ板無しの平均が1.6m/s,ベニヤ板有りの平均が1.5m/sであり,ベニヤ板の有無では有意差は認められなかった。<BR>ズレ度に関しては,ベニヤ板無しでの右のズレ度が0.1%,ベニヤ板有りでの右のズレ度が-0.1%,ベニヤ板無しでの左のズレ度が0.1%,ベニヤ板有りでの左のズレ度が0.0%,ベニヤ板無しでのズレ度の左右の平均が0.1%,ベニヤ板有りでのズレ度の平均が-0.1%であり,ベニヤ板の有無での比較にて有意差は認められなかった。<BR>【考察】<BR> 本研究を始めるにあたり,仮説としてはベニヤ板にて座面のたわみをなくすことで,ズレ度が減少し,車いす駆動速度が速くなると考えていた。その理由として,たわみによる骨盤の不安定性や後傾位となることで座位姿勢不良となり上肢の使いづらさへつながることや,たわみにより骨盤が前方へずれることで重心が前方へ移動し,キャスターへの負荷が増えると考えたためである。<BR>しかし,本研究ではズレ度,駆動速度両者に有意差がみられなかった。まずズレ度については,ベニヤ板にてたわみをなくすと姿勢が崩れやすいという報告や,座面のたわみは滑りにくいという報告があり,ベニヤ板でたわみをなくしたことでの姿勢への影響が少なかったことが考えられた。また,姿勢への影響が少なくなった原因としては,クッションを使用したことや被検者が健常成人であったため,座面の変化に対応したことが考えられた。<BR>駆動速度についても,ベニヤ板でたわみをなくしたことでの姿勢への影響が少なかったことや,ベニヤ板でたわみをなくし骨盤が後傾しにくくなったとしても,座高が高くなり重心が高くなったことでの影響を受けたためと考えられた。<BR> 本研究ではたわみによるズレ度,駆動速度への影響は明らかにならなかったが,日々の臨床においてたわみにより骨盤が後傾したり,左右へ傾く事がみられており,車いす駆動へ悪影響を及ぼしていると考えられる利用者は少なくない。そのため,今後もたわみによる悪影響を検証していく必要があると考える。<BR> また,本研究は被検者数が少なく統計的にも不十分であるため,本研究をプレテストととらえ,今後被検者数を増やしていく必要がある。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 当たり前のように存在する車いすの座面のたわみに対して着目し、今まで検討されていなかったズレ度との関連を検討したことに意義があると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), EdPF2056-EdPF2056, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572435456
  • NII論文ID
    130005017782
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.edpf2056.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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