人工股関節全置換術後患者の術後早期における爪切り動作の獲得状況と股関節可動域との関連性
説明
【はじめに】近年,医療界でもクリティカルパス(以下,CP)が導入され,効率化や質の管理が行われている.人工股関節全置換術(以下,THA)においても多くの施設でCPが運用され,入院期間の短縮が図られている.このためTHA術後の理学療法ではできる限り早期に日常生活動作(以下,ADL)を獲得していくことが求められている.これまでTHA術後早期のADL,特に靴下着脱動作について,その方法や身体機能との関連など多く報告されている.しかし,足趾の爪切り動作(以下,爪切り動作)の獲得状況や具体的な方法,股関節可動域との関連性について検討した報告は少なく,不明な点が多い.そこで本研究の目的は,THA術後患者の退院時における爪切り動作の獲得状況およびその方法について調査し,股関節可動域との関連性について検討することであった.【方法】本研究は診療録を後方視的に調査して行った.対象は当院において2012年5月~10月に変形性股関節症によりTHAを施行された者のうち,合併症等でCPから大きく逸脱した者,再置換術例を除いた29名(男性6名,女性23名)であった.術式は全例後側方侵入,セメントレスで,カップはほぼ目標角度に設置されていた.当院のCPは術後2日目より車椅子移乗,4日目より可及的全荷重にて歩行練習開始,3~4週で退院となっている.診療録からの調査項目は,年齢,性別,体重,変形性股関節症が両側例または片側例,手術から退院時評価までの日数(以下,術後日数),退院時の股関節可動域,爪切り動作の獲得状況とその方法であった.得られた情報から爪切り動作の可否およびその方法により群分けし,各群間で調査項目について統計学的に比較した.統計には一元配置分散分析およびTukey HSD法,カイ二乗検定を用い,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,当院倫理規定に基づいて実施された.【結果】爪切り動作を獲得できた者は15名(51.7%)で,獲得できなかった者は14名(48.3%)であった.その方法はすべて座位で,開排(股関節屈曲,外転,外旋)して行う者10名を外旋法群(男性3名,女性7名,66.0±10.1歳,58.2±6.7kg,両側例4例,片側例6例,術後日数22.8±4.7日),膝を抱えるように股関節,膝関節を屈曲して行う者3名と長坐位で行う者2名を合わせて屈曲法群(女性のみ5名,65.0±11.2歳,50.5±14.6kg,両側例3例,片側例2例,術後日数23.4±2.9日),獲得できなかった者を未自立群(男性3名,女性11名,63.9±8.7歳,58.2±7.1kg,両側例8例,片側例7例,術後日数23.9±4.1日)とした.すべての個人属性および術後日数について3群間で有意差を認めなかった.各群の股関節可動域は,外旋法群,屈曲法群,未自立群の順に,屈曲が85.5±11.4°,92.0±14.4°,80.4±10.1°,外転が29.0±9.4°,25.0±7.1°,20.7±4.7°,外旋が36.0±13.3°,26.0±12.9°,19.6±7.7°であった.解析の結果,外転(p<0.05)と外旋(p<0.01)で3群間に有意差を認め,多重比較検定により両者とも外旋法群が未自立群より有意に大きかった(P<0.05).【考察】股関節の可動域は多くのADLに関連することから,THA術後における獲得可動域は重要である.靴下着脱動作は術後3週間前後の入院期間でも獲得できるが,爪切り動作は靴下着脱動作と違い,趾先を直視して行うため正座や臥位で行うことはできず,また簡単な自助具もない.そのため,術後短期間で獲得するには困難な動作であると考えられたが,今回の調査では退院時に約半数の者が獲得していた.最も多かった外旋法は,股関節外転,外旋の可動域をより大きく獲得することで可能となっていた.屈曲法については,靴下着脱動作についてではあるが,股関節屈曲角度との高い関連性を指摘する報告が有り,一方で上肢長や肩関節可動域,足関節背屈可動域など股関節可動域以外の関連についての報告も有る.本研究では屈曲法群の股関節屈曲角度は未自立群より11.6°大きかったにもかかわらず有意差はなかったが,対象が5名と少なく,症例数を増やしてさらに検討が必要であると考えられた.今後,術前の機能から術後どの方法が最適であるか予測することや,獲得に要するまで期間を明らかにすることが課題である.【理学療法学研究としての意義】THA術後早期の爪切り動作についてその方法と参考可動域を示すことができたことは,今後理学療法の一助となると考えられた.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2012 (0), 48100367-48100367, 2013
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205572463616
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- NII論文ID
- 130004584897
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可