前十字靱帯再建例に対する術後早期能動型歩行訓練の効果

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  • ─下肢筋活動に及ぼす影響─

抄録

【はじめに、目的】 前十字靭帯(以下ACL)再建術後の早期歩行訓練の問題点として,Berchuck & Andriachiiの報告した立脚期の大腿四頭筋収縮を避けた歩行(quadriceps Avoidance gait)の残存すること,膝関節周囲筋萎縮に伴う荷重時の膝崩れ等が挙げられている.我々は安全で機能的な術後早期の歩行訓練を模索する過程で,手摺りを把持し身体を正中位に保ちながら自家筋力で床面ベルトを後方へ動かす自力歩行訓練器による歩行(以下,能動型歩行)訓練を実施し,早期の歩容改善を得ている.今回、この歩容改善のメカニズムを筋機能の観点から検討するため,能動型歩行訓練が下肢筋活動に及ぼす影響を筋電図学的に調査した.【方法】 対象は骨付き膝蓋腱を用い関節鏡視下ACL再建術施行後3週(全荷重歩行開始時)経過した14例14肢(男性5名,女性9名,年齢26.4±11.7歳:ACL再建群)と健常女性10名10肢(年齢19.8±1.4歳:健常群)とした.測定肢はACL再建群が患側,健常群は右側とした.能動型歩行訓練(パラマウント社製自力歩行訓練器ルイスウォーカー使用)が自由歩行に及ぼす影響を調査するため,1)歩行訓練前,2)歩行訓練直後,3)歩行訓練後30分の下肢筋活動を表面筋電計Noraxon社製Myotrace400を使用し,測定した(ACL再建群はACL用膝装具を装着).能動型歩行訓練の歩行速度についてACL再建群は痛み,不安感を伴わない範囲で可及的に速い速度(時速3.3±0.6km)とし,健常群は時速4.5kmとした.測定筋は,(1)内側広筋(以下,VM),(2)内側ハムストリング(MH),(3)腓腹筋内側頭(Gm),(4)前脛骨筋(TA)の4筋とした.筋活動はEberhart等の報告を参考とし,歩行周期中,最も活動する時期((1)VM,(2)MH,(4)TAは立脚期前半,(3)Gmは立脚期後半)について調査した. 立脚期前,後半の決定は各歩行動作を側方より矢状面でビデオ撮影し,足部接地,足部離地より求めた.筋電図の波形処理は1)~3)の各歩行条件で安定した3歩行周期をroot mean squareにより平滑化し,各歩行周期における平均値を求めた.筋活動の分析は歩行訓練前の自由歩行時の筋活動を100%とし,能動型歩行訓練の影響を変化率として算出した.検討項目は歩行訓練前,訓練直後,訓練後30分の筋活動の比較,VM/MH比の比較の2項目とした.統計処理には,反復測定による一元配置分散分析を行い,危険率5%未満を有意水準とした.【倫理的配慮、説明と同意】 研究に先立ち,全ての被験者に対し,1)研究内容,2)安全に十分配慮して研究を実施すること,3)被験者の機密保持に関する事項等に関し,十分な説明を行い,参加同意を得た.【結果】 ACL再建群におけるVMの変化率は歩行訓練直後207.6±85.2%,歩行訓練後30分163.8±63.7%,以下同様に,MHは154.7±57.2%,185.2±89.3%,Gmは205.6±113.6%,203.2±73.4%,TAは158.3±54.1%,132.4±42.3%を示し,全ての筋で歩行訓練直後に有意な筋活動の増加を認めた.更にVM,MH,Gmは歩行訓練後30分においても有意な増加を認めた.健常群はVMのみ訓練直後に増加傾向を認めた.VM/MH比の比較においてACL再建群の変化率は歩行訓練直後149.4±82.6%,歩行訓練後30分103.4±53.9%であり,訓練直後に増加傾向を認めた.健常群においても訓練直後に増加傾向を認めた.【考察】 ACL再建群における能動型歩行訓練後の持続した筋活動の増加は能動型歩行訓練器の特徴である踵よりベルトを踏み込み,主に前足部を使って後方へ引く動作様式が影響したと考える.ACL再建群は,能動型歩行訓練により,正常歩行で認める踵接地,蹴り出し動作を再学習し,その後の自由歩行における立脚期前半のVM,MH,TAの筋活動増加による荷重支持能力の向上,立脚期後半のGmの筋活動増加による蹴り出し能力の向上を促し,それが歩容の改善,正常歩行の獲得に繋がると考える.また,ACL再建群,健常群共にVM/MH比が歩行訓練直後に増加傾向を示したことは,能動型歩行訓練がMHと比較してVMの活動をより促すことに起因し,特にACL再建群は訓練前に残存したquadriceps avoidance gaitの改善も影響したと考える.【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果より,能動型歩行訓練がACL再建術後早期の歩行訓練として,正常歩行における下肢筋活動の再学習を促す訓練となることが示唆され,理学療法学研究として意義のあるものと考えられた.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Ca0248-Ca0248, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572485504
  • NII論文ID
    130004692922
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ca0248.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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