頸部痛に対する専用機器を用いた頭頸部屈曲エクササイズが主観的・客観的アウトカムに及ぼす影響

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抄録

【はじめに、目的】 頸部痛は筋骨格系の障害の中でも比較的訴えの多い症状の一つである。頸部痛に対しては様々なエクササイズが推奨されているが、中でも頸部深層屈筋(頭長筋、頸長筋)に対する頭頸部屈曲トレーニング(Cranio-Cervical Flexion training)は低負荷で実施可能で、その効果も実証されている。しかし、このトレーニングは自己管理下では効果が乏しいことが示されており、事前に正確な運動を学習する期間を設けることやセラピストの監視下で行うことが求められている。 そこで我々は自己管理下でも頭頸部屈曲トレーニングを簡便かつ効果的に実施するための機器を開発した。この機器は耳孔にほぼ一致する軸を有したアーム部分とバネ式の抵抗部分で構成されており、アームのクッション部分に後頭部をのせて頷き動作を行うことで頭頸部の屈曲運動が可能となる。先行研究ではこの機器を用いた頭頸部屈曲運動によって頭長筋が活動していることをMRIで確認している。 本研究の目的は、この機器を用いた頭頸部屈曲エクササイズが頸部痛を訴える人の主観的・客観的アウトカムに影響を及ぼすか否かを検討することとした。【方法】 対象は頸部痛を訴えるボランティア8名(男性5名、女性3名、年齢33.3±8.7歳)とした。 エクササイズは先行研究のプロトコルを参考にした。被験者は膝を屈曲した背臥位をとり、後頭部を機器のアームのクッション部分にのせて頭頸部を屈曲する。屈曲の最終域で10秒間保持してからゆっくりと開始肢位に戻し、これを10回繰り返す。エクササイズの指導は初回のみとし、この運動を1日2回、4週間行なってもらった。 客観的アウトカムとして初回、2週間後、4週間後に頸椎の自動関節可動域(屈曲、伸展、側屈、回旋)を測定した。主観的アウトカムとして、痛みの強さを示すNumerical Rating Scale(NRS)、頸部痛がADLに及ぼす影響を示す日本語版Neck Disability Index(NDI-J)に回答してもらい、また2週間後と4週間後にはエクササイズ開始時からの症状の変化を7段階から選んでもらうPatient Global Impression of Change(PGIC)にも回答してもらった。 分析にはSPSS 16.0Jを使用し、有意水準は5%とした。NRSはFriedman検定で有意差を確認した後にWilcoxon検定を行い、Bonferroni法による補正をして分析した。NDIと頸椎ROMは反復測定による一元配置分散分析を行い、NRSと同様の補正をして分析した。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には研究内容について口頭と書面で説明し同意を得た。本研究は首都大学東京荒川キャンパス研究安全倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】 頸椎ROMの平均値(初回、2週間後、4週間後)は伸展が(50.1±12.5°、65.1±10.0°、70.8±9.0°)となり、有意に可動域の増大を認めた。同様に側屈や回旋においても有意な可動域の増大を認めたが、屈曲においては有意差を認めなかった。 NRSの中央値は(3、2、1)、NDI-Jの平均値は(11.4±5.9点、6.7±3.9点、3.2±2.0点)となり、共に有意に改善を認めた。PGICは4週間後に全ての被験者が2(だいぶ良くなった)と回答した。【考察】 客観的アウトカムである頸椎ROMは屈曲を除く全ての運動で有意に関節可動域が増大した。頸部痛患者では胸鎖乳突筋や斜角筋、僧帽筋上部線維などの表層筋群の活動が増加し、頸部深層屈筋の活動が減少することが報告されている。頸椎の伸展運動ではこの頸部深層屈筋の遠心性制御が重要とされていることから、今回のエクササイズによりその機能が改善され伸展可動域が増大したと考えられた。また、表層筋群の活動が減少したことが側屈や回旋の可動域の増大に影響したことが推測された。 主観的アウトカムにも改善が認められ、NDI-Jは平均で8.2点減少した。先行研究によるとNDI-Jの最小可検変化量(MDC)は6.8であることから、今回のNDI-Jの改善は測定誤差ではなく実際に被験者の症状が改善したことが示された。 以上のように、自己管理下においても各アウトカムに改善が認められた。これは、機器のアームが一定の動きをすることによって正確な頭頸部屈曲運動が反復されたことが影響したものと推測された。今後の課題として、対照群を設定し他のエクササイズと効果を比較する必要性が挙げられる。【理学療法学研究としての意義】 今回の機器をエクササイズに利用することによって、自己管理下においても頸部痛患者の症状改善に貢献できると思われる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100395-48100395, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572491520
  • NII論文ID
    130004584914
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48100395.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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