腓腹筋内側頭の効果的・選択的ストレッチング方法の考案
説明
【はじめに、目的】腓腹筋内側頭はスポーツ損傷の好発部位であり,その治療や再発予防の目的でストレッチング(以下,ST)が頻回に用いられる.しかし,その方法は解剖学的,バイオメカニクス的に十分に検証されているとは言い難い.そこで本研究は,(1)日本人遺体を用いて,下腿三頭筋の肉眼解剖学的構造を詳細に観察・分析し,内側頭の効果的・選択的ST方法を考案することと,(2)健常成人を対象に,考案した方法を,超音波装置を用いて定量的に検証することを目的とした.【方法】実験(1):対象は,日本人遺体15 体25 側(平均年齢78.3 ± 12.2 歳)とした.主に肉眼解剖学的手法を用い,下腿三頭筋の構造を詳細に観察した.そして得られた解剖学的所見から,内側頭の効果的・選択的ST方法を考案した.実験(2):対象は,健常成人男性8 名(平均年齢21.0 ± 1.3 歳)であり,全て右足を使用した.対象者は,多用途筋機能評価訓練装置BIODEX SYSTEM3(酒井医療株式会社製)に着座し,足部をフットプレートに膝関節伸展0°・足関節底屈10°(開始肢位)で固定した.ST肢位は,肢位1:膝関節伸展0°・足関節背屈10°,肢位2:股関節内旋15°・膝関節伸展0°・足関節背屈10°・外反10°,肢位3:股関節内旋15°・膝関節伸展0°・足関節背屈10°・内反10°の3 肢位とし,ランダムに実施した.各ST間は,前に施行するSTの影響を低減するために30 分以上の安静をとった.測定は,同一検者が開始肢位とST肢位とで,超音波画像診断装置(日立AROKA株式会社製)を用いて3 回測定した.測定部位は,内側頭と外側頭(膝窩皮線と外果を結んだ線の近位30%)とした.なお,測定中は筋電図用表面電極を腓腹筋筋腹に貼付し,筋電計(ADInstruments社製)を用いて,防御性収縮が起きていないことを確認しながら行った.解析方法は,画像解析ソフト(Image J,NIH)を用いて,測定した超音波画像から羽状角,筋厚,筋束長=筋厚/sinα(αは羽状角)を計測し3 回の平均値を採用した.統計学的検討は,超音波測定の検者内信頼性は級内相関係数(ICC;1,1),各肢位間での羽状角と筋線維長の変化率(%)の比較は,一元配置分散分析及び,Tukey-kramer法,各肢位内での羽状角と筋線維長の変化率(%)の比較は,対応のないt検定を用いて行った.なお,有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言の趣旨に則り,かつ所属大学倫理委員会で承認を受けた.被験者に対しては本研究の内容を十分に説明し,書面にて同意を得た.【結果】実験(1):下腿三頭筋の構造は,筋線維と腱膜とが三次元的に重なり合う複雑な構造を呈していた.アキレス腱は腓腹筋内側頭と外側頭,ヒラメ筋の停止腱が互いにねじれながら融合していた.ねじれの程度にはバリエーションはあるが,アキレス腱を頭方から見て右側では時計回り,左側では反時計回りのねじれ構造を呈していた.また,ねじれの程度に関わらず内側頭停止腱は内側から外側方向へ斜めに走行し,踵骨隆起外側に付着していた.これらの所見を考慮した膝関節伸展・足関節背屈に,股関節内旋(下腿内旋)と足関節内反を加える肢位3 を考案した.実験(2):全ての施行において筋活動は認められなかった(%MVC<2%).級内相関係数(ICC;1,1)は,羽状角が0.86,筋厚が0.98 であり高い信頼性が確認できた.また,各肢位間での開始肢位の羽状角と筋厚に有意差はなく,前施行の影響を低減できていることが確認できた.肢位3(実験1 での考案肢位)における内側頭の羽状角は,他のST肢位に比べて有意に減少し(肢位1:82.4%,肢位2:84.5%,肢位3:69.6%),筋線維長は増加した(肢位1:123.6%,肢位2:123.7%,肢位3:145.2%).各ST肢位内における内側頭と外側頭の比較では,肢位3 でのみで外側頭に比べて内側頭の羽状角が有意に減少し(内側頭:69.6%,外側頭:94.0%),筋線維長が有意に増加した(内側頭:145.2%,外側頭:108.2%).【考察】腓腹筋内側頭は2 関節筋であり下腿後内側面に位置するため,ST肢位1 や2 のように,膝関節伸展・足関節背屈や,更に股関節内旋・足関節外反を加える方法が報告されている.しかし,これらの方法は解剖学的,バイオメカニクス的に十分に検証されているとは言い難い.今回,解剖学的所見から考案したST肢位3 における内側頭の羽状角は,他のST肢位に比べて有意に減少し,筋線維長は増加した.また,ST肢位3 でのみ外側頭に比べて内側頭の羽状角が有意に減少し,筋線維長が有意に増加した.これらから,膝関節伸展・足関節背屈に股関節内旋(下腿内旋)・足関節内反を加えることで内側頭を効果的・選択的にSTできると考える.【理学療法学研究としての意義】本研究のように,肉眼解剖学的分析から生体検証までを一貫して定量的に評価し,治療に役立てる試みは少ない.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2012 (0), 48100333-48100333, 2013
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205572515840
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- NII論文ID
- 130004584867
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可