食後の循環動態の変動について

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  • 壮年者、高齢者、糖尿病患者における比較検討

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【はじめに、目的】高血圧治療ガイドラインにおいては、糖尿病を合併する高血圧患者に対して強力な降圧療法が推奨されている。しかし一方でこれらの患者においては、低血圧によるQOLの低下が報告されている。その中でも代表的な低血圧の一つとして、食事が直接の誘因となる食後低血圧があり、食事開始から2時間以内に収縮期血圧が20mmHg以上低下するものと定義される。食後低血圧は特に高齢者や自律神経障害患者、糖尿病患者で臨床上問題になるとされているが、実際には食後低血圧の詳細については十分検討されていない。そこで本研究では健常な壮年者および高齢者、また糖尿病患者を対象とし、食事による循環動態の変動を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は糖尿病に罹患していない健常な壮年者9名(55.0±7.4歳)と高齢者12名(77.5±9.0歳)、食事・運動療法のみで治療中の糖尿病患者14名(57.6±6.8歳)であった。対象者には前日よりアルコールとカフェインの摂取、激しい運動を禁止し、実験前3時間は絶食とした。午前11時40分に食前の測定を開始し、10分間の安静後、血圧の測定および心電図200拍分を記録した。血圧測定にはオムロンデジタル自動血圧計HEM-9000AIを、心電図の記録にはフクダ電子社製の心電計CardioStar FX-7432を用いた。食事は12時に開始し、内容は日本糖尿病学会の依頼によるキューピー(株)のテストミール(エネルギー460kcal、糖質57.8g、たんぱく質17.2g、脂質16.6g)とした。食事開始から1時間後に食後の測定として再度測定を行った。測定項目は上腕収縮期血圧(bSBP)、上腕拡張期血圧(bDBP)、心電図200拍分のRR間隔から求めた平均心拍数(HR)、心臓自律神経活動とした。RR間隔をフーリエ変換によって心拍変動周波数解析を行い、高周波成分(HF)を心臓副交感神経活動、高周波成分と低周波成分(LF)の比であるLF/HFを心臓交感神経活動の指標とし、正規化するために自然対数化したlnHFおよびlnLF/HFを測定値として採用した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、ヘルシンキ宣言の趣旨に従って研究の目的、方法、予想される結果およびその意義について説明を行い、書面にて同意を得た上で実施した。また、本研究は神戸大学大学院保健学研究科および医療法人緑風会龍野中央病院の倫理規定に則って承認を得た後に実施した。【結果】食前安静時のbSBP、bDBPは、糖尿病患者群において、壮年者群や高齢者群と比較してそれぞれ有意に高値を示し、HRは高齢者群と糖尿病患者群において、壮年者群よりそれぞれ有意に高値を示した。lnHFは壮年者群と比較して糖尿病患者群において有意に低値を示し、高齢者群においては有意ではなかったが壮年者群より低値を示した。食前とのbSBP[mmHg]の比較では、高齢者群(食前:124.3±13.3 vs 食後:120.5±19.1、p=0.049)と糖尿病患者群(食前140.9±15.2 vs 食後:131.2±11.4、p<0.01)で食後に有意な低下がみられた。壮年者群ではbSBPの変化はみられなかった。HRの変化については、壮年者で有意な増加がみられたが、高齢者群、糖尿病患者群ではHRの有意な変化はみられなかった。lnHFおよびlnLF/HFでは、食前と比較して有意な変化はみられなかったが、壮年者群においてlnLF/HFの上昇傾向がみられた(p=0.064)。【考察】bSBPの食事による変化について、壮年者群では有意な変化はみられなかったが、高齢者群と糖尿病患者群では有意な低下がみられ、糖尿病患者群において高齢者群より大きな血圧低下がみられた。食事を摂取することで血管拡張を介する消化管への血液のpooling等の血圧低下要因が生じるが、健常者においてはHRや心拍出量の増加による代償機構が働き血圧を維持すると考えられている。しかし加齢や糖尿病によって自律神経活動が障害されることで、その代償機構が障害されると考えられる。本研究で対象とした糖尿病患者は、進行度としては初期であるが、食前安静時のHFが壮年者と比較して有意に低く、また食後の血圧低下に対してHRやLF/HFの上昇がみられないことを加味すると、この段階でも自律神経応答はすでに障害され、食後の血圧低下を代償する機構が障害されている可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】食事による循環動態の変動、特に血圧の変動は、理学療法を実施する上でのリスクファクターとなりうる。本研究では高齢者においても食後の血圧低下が認められたが、それ以上の血圧低下が初期の糖尿病患者において認められたことから、初期からの自律神経応答の障害が示唆され、糖尿病患者において起床就寝時のみならず食前食後の血圧管理の必要性が示唆されたと考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100348-48100348, 2013

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

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