立位姿勢が椎体応力に及ぼす影響

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  • 体幹筋骨格モデルの構築

抄録

【目的】日本人の平均寿命は年々増加し,男女ともに世界有数の長寿国である.高齢者の増加とともに骨粗鬆症および脊柱変形者の割合も増加の一途をたどっている.脊柱変形には様々な因子が関与しており,脊椎骨の強度の他に脊柱起立筋などの支持筋群が挙げられる.われわれは脊柱シミュレーションモデルにおいて脊柱起立筋群の筋力低下により脊柱後弯が増強され,椎体の応力増加へとつながることを報告した.しかし,実際に症例毎の椎体応力を詳細に検討するためには,実測した姿勢や動作から筋骨格モデルを用いて筋張力を推定し,応力解析を行う必要がある.<BR>近年動作解析装置が著しく発展し,詳細な評価分析を行うことが可能となってきた.動作中の筋張力推定も詳細な検討が可能となっており,四肢関節に応用されている.しかし,体幹の筋骨格モデルは報告数が少なく,十分な検討がなされていない.これは椎間関節の数や筋の数が多いこと,椎間関節の可動域が各症例で異なること,腹圧,靱帯の影響,筋の生理断面積など課題が多いためである.本研究の目的は体幹における筋骨格モデルを作成し,3次元動作解析を行うことで椎体への応力を解析することである.<BR>【方法】健常な成人男性を対象に体幹のCT, MRIを撮像した.CT像より骨格領域を抽出し,Materialise社製MIMICSを用いて骨形状を3次元抽出した.筋骨格モデルは,豊田中央研究所製EICASを使用し3次元抽出した骨格を基に作成した.MRI断層画像より各筋を抽出し,筋の走行を再現した.モデル構築に使用した筋は,腹直筋,内外腹斜筋,腰方形筋,大腰筋,棘間筋,横突間筋,回旋筋,多裂筋,腰腸肋筋,胸腸肋筋,胸最長筋,胸棘筋,胸半棘筋である.各筋の断面積はMRIより算出し,腹圧はモデル上で直接再現できないため外力として設定した.各椎間関節の可動域はレントゲン写真から算出し,筋骨格モデルに反映させた.構築した筋骨格モデルから立位時の筋張力を算出するため,3次元動作解析装置VICON MXを使用し,静的立位姿勢を計測した.計測条件は脊柱起立筋群を脱力させた安楽立位と直立立位,軽度前屈位の3条件とした.72個の反射マーカーを体表に貼付し,各マーカーの座標位置を作成した筋骨格モデルに反映させた.算出した各筋の筋張力および関節角度をVisual Nastran 4Dに使用し応力を解析した.<BR>【説明と同意】本研究は世界医師会によるヘルシンキ宣言にのっとり行った.本研究の対象者は共同演者である医師であり,十分に趣旨を理解し研究に同意を得た.また整形外科医立ち会いの下CT, MRI, レントゲン撮像を行った.<BR>【結果】作成した筋骨格モデルから筋張力を推定可能であった.各椎間における屈曲モーメントは,軽度前屈位で最も高く安楽立位で減少し,脊柱の可動性を反映させることが可能であった.特に安楽立位では頂椎付近であるT8レベル周囲で屈曲モーメントが減少した.直立立位での筋張力は先行研究と類似していた.応力解析は軽度前屈位,安楽立位で椎体の応力が増加する結果となった.<BR>【考察】ヒトの脊柱アライメントは様々な影響を受け,その中でも筋力が与える影響は大きい.今回,筋骨格モデルを作成し,各椎間関節におけるモーメントおよび筋張力を推定することが可能であった.脊柱起立筋の筋張力が減少することで靱帯や椎体へのストレスが増強し,椎体応力が増加する結果となった.特に骨粗鬆症や圧迫骨折が基盤にあり後弯変形を呈している症例では,さらなる筋力低下により椎体へのストレスが増加すると考えられた.今後後弯変形者を対象とした測定を行い,椎体への応力と背筋筋力トレーニングの効果を検討する必要がある.<BR>【理学療法学研究としての意義】圧迫骨折は椎体応力の増加により容易に生じ,それに伴う後弯変形はQOLと密接に関係する.薬物療法と共にいかに椎体へのストレスを減少させるかが運動療法を進める上で重要である.本研究により,ストレス減少の基盤となる筋力や姿勢の影響を検討することが可能となる.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), C3O3037-C3O3037, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572550912
  • NII論文ID
    130004582323
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.c3o3037.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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