大腿骨頚部骨折術後患者の認知機能とADLおよび歩行能力の関連
説明
【目的】大腿骨頚部骨折術後は回復期リハビリテーション(以下,回復期リハ)の適応とされ,自宅退院へ向けて包括的な介入を必要とする病態である.患者の多くは高齢者であり,ADLを向上させて歩行能力を獲得するためには筋や骨関節の問題のみならず,中枢神経系を含めた広い視野から問題点を抽出し,対応を図る必要がある.臨床上,高齢であることや認知症の合併は歩行に関する機能予後の不良因子と予想されるが,回復期リハの帰結として両者の関係を詳細に検討した報告は少ない.我々は術式や年齢,および認知機能と歩行能力の関連を検討し,大腿骨頚部骨折患者の機能予後に関わる因子を明らかにすることを目的としてカルテ調査を行った.<BR>【方法】2000年4月から2009年3月までに大腿骨頚部骨折術後の診断で当センターにおいて回復期リハを行った症例のうち,既往歴に脳血管疾患を有さない47名を対象とした.後方視的に診療録を参照し,年齢,性別,在院日数,術式,転帰先,ならびにADLの自立度としてFunctional Independence Measure(以下,FIM)の入退院時における点数を抽出した.年齢と在院日数,FIM各合計点間の相関係数を算出するとともに,術式については年齢,在院日数,FIM各合計点を群間比較した.また,退院時のADLおよび歩行能力に影響を及ぼす因子を明らかにするために,退院時のFIM得点を従属変数,入院時のFIM得点を独立変数として重回帰分析を行った.さらに,症例を認知機能が低い群(入院時のFIM認知項目合計点が30点未満)および高い群(同30点以上)の2群に分け,FIM総合計点ならびに退院時に歩行がFIM6点(修正自立)以上となる確率に差があるかを検定した.統計ソフトウェアはエクセル統計ver.2007を用い,各検討項目についてはそれぞれ対応のないt検定,ピアソンの相関係数,マン・ホイットニーのU検定,ステップワイズ重回帰分散分析,カイ2乗検定を行った.<BR>【説明と同意】個人情報の取り扱い等については入院時にすべての患者に口頭および書面をもって明示し,同意を得た.<BR>【結果】対象の内訳は男性13名,女性34名,平均年齢79.7±11.3歳,平均在院日数98.3±49.0日で,人工骨頭置換術20例,観血的骨接合術27例であった.入院時のFIM合計点は運動項目54.1±23.3点,認知項目29.1±6.02点,総合計83.2±27.0点,退院時はそれぞれ69.9±17.2点,29.5±6.4点,99.3±22.4点であった.人工骨頭置換術群と観血的骨接合術群の2群間では,年齢,在院日数,退院時のFIM総合計点,入院時のFIM認知項目合計点のすべてにおいて有意な差は認められなかった(p> 0.05).また,年齢と退院時FIM総合計点(r= 0.21),在院日数(r< 0.01)にも高い相関は認められなかった.退院時のFIM総合計点に影響を及ぼす項目としては,入院時の記憶項目の回帰係数が最も大きく(5.07),次いで問題解決項目が回帰式に採用された.両項目に切片を加えた回帰式の決定係数は0.78であった.退院時のFIM総合計点と入院時のFIM認知項目合計点の相関係数は0.87で強い相関が認められた.また認知機能が低い群は高い群と比較して,FIM総合計点は有意に低かった(p< 0.01).退院時に歩行自立となる割合においても,認知機能が低い群は高い群と比較して有意に低かった(p< 0.05) .<BR>【考察】退院時のADLは年齢や術式によらず,入院時の認知機能によって最も左右され,特に記憶と問題解決能力が重要であることを示した.認知機能が低下している者は,回復期リハについて歩行能力や生活能力の帰結が不良である可能性が高いことが示唆される.一方,高齢であっても認知機能が保たれている症例は歩行に関する機能予後は必ずしも不良ではない.入院時の評価で認知機能が低下している場合は,歩行の自立獲得が困難であることを想定して早期から介護•療養環境を調整していく必要がある.大腿骨頚部骨折術後における歩行障害は運動器に関する問題に留まらず,認知面の問題も含めて対応を検討しなければならない. <BR>【理学療法学研究としての意義】大腿骨頚部骨折患者の理学療法における認知機能の重要性を端的に示した.対象選択におけるバイアスを始め,後方視研究としてのデザインに限界はあるが,退院後の生活指導や環境設定も含めて認知機能の詳細な評価の重要性はより注目されるべきであり,今後は連携パスなどへの応用も視野に追跡調査を検討していきたい.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2009 (0), C3O2160-C3O2160, 2010
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205572560896
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- NII論文ID
- 130004582308
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可