足角がインソールの効果に及ぼす影響

【目的】膝関節の骨関節障害において，歩行中の膝関節への負荷は，病態の進行と悪化に対する鍵となる役割を果たすと報告されている．外的な膝関節内反モーメントの減少は膝関節内側コンパートメントの負荷減少に関与するとされている．中でも外側ウェッジ・インソールの効果は緒家により報告されており，膝関節内反モーメントを減少させることが示されている．しかし臨床場面では外側ウェッジのみのインソールや，外側ウェッジにアーチサポートを付加したインソールなどが利用されることが多い．これらは経験的に選択されており，効果に対する見解は一致するに至っていない．また，それらのインソールは歩行立脚期の足角の影響やCOPの移動と密接に関与していると考えられる．本研究では，外側ウェッジにアーチサポートを付加したインソールの効果が，足角により影響を受けることを運動力学的に明らかにすることを目的とした．<BR><BR>【方法】対象は健常成人男性17名．年齢は23.5±2.9歳，身長は172.4±5.4cm，体重は64.1±7.6kgであった．本研究で用いたインソールはフラットなインソール，アーチサポートを付加したインソール，外側ウェッジを付加したインソール，外側ウェッジとアーチサポートを付加したインソールの4種類とした．計測方法は，被験者に反射マーカーを15箇所貼付し，三次元動作解析システム（VICON：Oxford社製）と，床反力計（AMTI社製）を用いて計測し，右膝関節の外的内反モーメント，足角を算出した．なお，歩行速度は快適速度として5回計測し，解析にはその平均値を用いた．各条件の測定順はランダムとした．立脚後期の膝関節内反モーメントのフラットに対する各々の比率を算出した．膝関節内反モーメントのフラットに対する比率が減少することは，膝関節内側コンパートメントの負荷が減少し，インソールの効果があったことを意味する．4条件の膝関節内反モーメントの比較には反復測定による一元配置分散分析，Bonferroniの多重比較を用いて分析した．また，膝関節内反モーメントと足角との相関にはPearsonの相関係数を用いた．統計分析上の有意水準は全て5％未満とした．<BR><BR>【説明と同意】本研究は鹿児島大学倫理審査委員会より承認を受け，研究参加に際し対象者に十分な説明を行い，同意を得て行われた．<BR><BR>【結果】4条件の立脚後期の膝関節内反モーメント最大ピーク値は，フラット23.5±6.3 Nm，アーチサポート24.4±6.2 Nm，外側ウェッジ21.1±6.2 Nm，外側ウェッジ・アーチサポート21.8±5.8 Nmであった．アーチサポートでは，toe outを呈する対象者ほど，膝関節内反モーメント比は有意に増加した（r=-0.51, p<0.05）．外側ウェッジでは，有意な相関は認められなかった（r=0.14, p>0.05 ）．外側ウェッジ・アーチサポートでは，toe inを呈する対象者ほど，膝関節内反モーメント比は有意に減少した（r=-0.54, p<0.05）．<BR><BR>【考察】アーチサポートでは，toe outを呈する対象者の膝関節内反モーメント比を増加させた理由として，足関節内反に伴い運動連鎖が生じて膝関節が内反位となり，膝関節の内側を通る床反力のベクトルと膝関節中心との距離がより長くなったためと考えた．外側ウェッジ・アーチサポートでは，toe inを呈する対象者ほど，膝関節内反モーメントを減少させた理由として，toe inを呈する対象者にとって外側ウェッジにより，膝関節の外反と同時に内旋を誘導される．その結果COPが内側へ移動して膝関節内反モーメントが増加すると考えられる．外側ウェッジ・アーチサポートでは，膝関節の内旋を抑制し外旋方向に誘導することで，足角が正常歩行に近づき，COPの内側への移動も制御できると考えられ，結果としてインソールの効果に影響を与えると考えられる．<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】本研究はアーチサポートを付加したインソールの効果が，足角により受ける影響を分析することで，膝関節内反モーメントを効果的に減少させるインソールを選択する上での一つの指標となりうる．