股関節外転静止性収縮の運動方向の違いが中殿筋前・中・後部線維の筋形状に及ぼす変化

DOI
  • 見供 翔
    社会医療法人河北医療財団河北総合病院リハビリテーション科 首都大学東京大学院人間健康科学研究科理学療法科学域
  • 竹井 仁
    首都大学東京大学院人間健康科学研究科理学療法科学域
  • 市川 和奈
    首都大学東京大学院人間健康科学研究科理学療法科学域 千川篠田整形外科リハビリテーション科
  • 小川 大輔
    首都大学東京大学院人間健康科学研究科理学療法科学域 目白大学保健健医療学部理学療法学科
  • 古谷 英孝
    首都大学東京大学院人間健康科学研究科理学療法科学域 苑田会人工関節センター病院リハビリテーション科
  • 窪田 幸生
    社会医療法人河北医療財団河北総合病院リハビリテーション科

書誌事項

タイトル別名
  • ─超音波画像診断装置を用いた検討─

抄録

【はじめに、目的】 中殿筋は、その解剖学的構造により、前部線維・中部線維・後部線維に分けられる。中殿筋の機能は、全体としては股関節の外転・内旋に作用するが、各線維の走行を考慮すると、前部線維は外転・屈曲・内旋、中部線維は外転、後部線維は外転・伸展・外旋に作用するとの研究もある。ただし、それらの実際の働きを生体において確認した研究は少ない。なかでも、超音波画像診断装置を用いて、中殿筋各線維の定量的評価を行った研究はない。そこで、本研究は、股関節外転静止性収縮の運動方向を変化させることで、中殿筋各線維の形状変化の違いを超音波画像を用いて解析することを目的とした。【方法】 対象は健常男性7名14肢とした。被験者の平均年齢は26.5(22-34) 歳、身長及び体重の平均値(標準偏差)は171.4(4.5)cm、体重60.9(6.3)kgであった。被験者には、側臥位での股関節屈伸及び内外旋中間位からの、3つの運動方向への股関節外転静止性収縮を行わせた。運動課題は、1:床からの垂直面上の股関節外転、2:床からの垂直面から60°前方への股関節外転、3:床からの垂直面から60°後方への股関節外転とした。超音波画像診断装置(HITACHI EUB-7500)を使用し、各運動課題遂行中の中殿筋各線維の筋厚[mm]および筋腱移行部距離[mm]を測定した。筋厚測定時のプローブの設置位置は、前部線維:上前腸骨棘と大転子を結ぶ線の50%、中部線維:腸骨稜頂点と大転子を結ぶ線の50%、後部線維:上後腸骨棘と大転子を結ぶ線の50%とした。筋腱移行部距離のプローブの設置位置は、各筋線維の筋厚測定時の線上における大転子付着部とした。測定に先立ち、各課題での最大股関節外転静止性収縮時の股関節外転トルクをマイオメーター(Biometrics Gwent NP11)を用いて測定した。実際の各運動課題遂行中は、事前の測定した筋力の30%の筋力を発揮させ、その際の各筋線維の筋形状を超音波診断装置で測定した。安静時と課題中の測定値から筋厚変化率と筋腱移行部距離変化率を測定した。変化率は(運動課題時の値-安静時の値)/安静時の値×100(%)とした。統計学的分析はSPSS12.0Jを用いて各形状変化を従属変数とし、課題条件を独立変数とした反復測定における一元配置分散分析と事後検定(Tukey HSD法)を実施した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、筆頭演者所属の大学院における研究倫理審査委員会の承認 (承認番号10068)を得た上で、被験者に対して事前に研究趣旨について十分に説明した上の後書面での同意を得て実施した。【結果】 筋厚変化率に関しては、前部線維は、課題2が課題1と3に対して有意に高い変化率を示し、課題1が課題3に対して変化率が高くなる有意傾向(p=0.08)を示した。後部線維は、課題3が課題1と2に対して有意に高い変化率を示した。筋腱移行部距離変化率に関しては、前部線維では課題2が課題3に対して有意に高い変化率を示し、後部線維では課題3が課題1と2に対して有意に高い変化率を示した。中部線維は、筋厚変化率と筋腱移行部距離変化率ともに各課題間に有意差を認めなかった。【考察】 筋厚は筋力と関係を示し、また筋電図との間にも相関があると報告されている。本研究では、筋電図波形は計測していないが、これらの先行研究を考慮すると、中殿筋の各線維の筋厚の変化は筋活動の変化を示していると考える。つまり、上前腸骨棘から大転子へ走行する前部線維では、課題2で有意な筋厚変化を示したことから、前部線維には、股関節外転作用に加えて屈曲作用を有しているといえる。また、上後腸骨棘から大転子へ走行する後部線維では、課題3で有意な筋厚変化を示したことから、後部線維には、股関節外転作用に加えて伸展作用を有しているといえる。さらに、筋腱移行部距離変化率において前部線維は課題2が課題3よりも高い変化率を示し、後部線維においては課題3が他の課題よりも高い変化率を示したことから、筋腱移行部距離変化率も筋厚変化率と同様に筋の形状変化の一指標になりうる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 超音波画像診断装置を用いた結果から、股関節外転運動に作用する中殿筋には形態的に異なる筋線維走行が存在し、機能的な作用の違いが確認できた。本研究の結果を踏まえると、前部線維の選択的な筋力強化は、股関節外転に屈曲方向を複合した運動を、後部線維の選択的な筋力強化は、股関節外転に伸展方向を複合した運動を考慮する必要があると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Ab1073-Ab1073, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572634112
  • NII論文ID
    130004692497
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ab1073.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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