立ち乗り型パーソナル移動支援ロボットを用いたバランス練習効果の予備的検討

DOI
  • 伊藤 慎英
    藤田保健衛生大学病院リハビリテーション部
  • 才藤 栄一
    藤田保健衛生大学医学部リハビリテーション医学I講座
  • 尾崎 健一
    藤田保健衛生大学医学部リハビリテーション医学I講座
  • 田辺 茂雄
    藤田保健衛生大学医療科学部リハビリテーション学科
  • 近藤 智之
    藤田保健衛生大学病院リハビリテーション部
  • 橋爪 美春
    藤田保健衛生大学病院リハビリテーション部
  • 首藤 智一
    藤田保健衛生大学病院リハビリテーション部
  • 不破 稔夫
    トヨタ自動車株式会社パートナーロボット部

抄録

【目的】<BR> 転倒予防についてはバランス練習や下肢筋力増強訓練などが効果を有すると報告されている.加えて,外乱刺激に対して転倒回避を行う練習が注目されている.左右別々のランダムなベルト減速を外乱刺激に用いたトレッドミル歩行練習によって,ファンクショナルリーチテスト(以下:FRT)等の改善が得られたという報告がある.近年,立ち乗り型パーソナル移動支援ロボットが開発されている.このロボットの主目的は倒立振子制御による平地移動である.著者らは,搭乗者の重心移動に応じて,立ち乗り型パーソナル移動支援ロボットが移動する機能を利用し,バランス練習を作成することが可能であると考えた.同時に多様な外乱を組み込み,従来法と比較して安全で細かな難易度調整が実現できると考えた.本研究では,慢性期の中枢神経障害患者に対して立ち乗り型パーソナル移動支援ロボットを用いたバランス練習を行い,バランス能力改善効果について予備的な検討を行った.<BR>【方法】<BR> 対象は,藤田保健衛生大学病院リハビリテーション科の通院歴があり,屋外歩行修正自立以上であるがバランス能力低下を認める慢性期中枢神経障害患者4例とした.対象の詳細は,年齢51±17歳,男性3例,女性1例,発症後16±8ヶ月であった.バランス練習は,立ち乗り型パーソナル移動支援ロボットを用いた外乱対処練習およびゲームを取り入れた重心移動練習を1回20分,週2回の頻度で6週間,計12回行った.練習期間の前と後に快適歩行速度,継ぎ足歩行速度,FRT,Cross Test,ハンドヘルドダイナモメータにて下肢筋力を測定した.測定筋は,腸腰筋,中殿筋,大腿四頭筋,ハムストリングス,前脛骨筋,腓腹筋の6筋とした.また,練習後にアンケートを実施した.従来のバランス練習に比べ,楽しかったか,今後のバランス練習の方法としてどちらを選択したいかの2問をアンケートした.本研究は予備的検討で症例数が4と少ないため,統計処理は行わなかった.<BR>【説明と同意】<BR> 本研究はヘルシンキ宣言に基づいたものであり,本学の疫学・臨床研究倫理審査委員会において承認を得た後に計測を行った.被験者には実験について十分に説明を行い,計測の前に同意書に署名を得た.<BR>【結果】<BR> 練習期間の前後において,快適歩行速度は3.4±1.6cm/secから3.8±1.3cm/sec,継ぎ足歩行速度は12.9±9.4cm/secから21.7±10.4cm/secと増大した.バランス能力の評価であるFRTおよびCross Test前後移動距離も同様に改善を認めた(それぞれ21.1±2.2cmから25.6±4.0cm,10.4±1.2cmから12.1±1.2cm).下肢筋力においては,計測したすべての筋で筋力の増大を認めた(腸腰筋 19.4±8.7kgから23.8±7.8kg,中殿筋 24.3±7.5kgから30.2±5.5kg,大腿四頭筋 19.3±10.5kgから23.1±8.4kg,ハムストリングス 11.4±3.5kgから13.9±3.3kg,前脛骨筋 22.6±5.6kgから26.8±6.8kg,腓腹筋 40.2±7.4kgから51.2±5.9kg). <BR> また,アンケートは,従来のバランス練習に比べ,楽しく,今後のバランス練習の方法として,立ち乗り型パーソナル移動支援ロボットを用いたバランス練習を選択したいという結果であった.<BR>【考察】<BR> 立ち乗り型パーソナル移動支援ロボットを用いたバランス練習で,バランス能力と下肢筋力が改善する傾向を認めた.立ち乗り型パーソナル移動支援ロボットを用いたバランス練習は,1)転移性の高い運動課題:重心移動のために必要な運動を直接行う課題,2)フィードバック効果:通常は分かりにくい重心移動が実際の移動という形で体感できること,3)多段階の難易度設定:外乱刺激の大きさ,ゲームの速度や運動範囲の設定により,被験者毎に適切な難易度課題を安全に作成できること,など運動学習の原則に相応したものになったため,動的バランス能力が大きく向上した結果と推察できる.また,本練習方法におけるゲーム性の導入は,楽しく能動的な練習を可能とし,集中性や持続性に好影響があると考えられる.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> バランス障害は,日常生活活動の低下に著しく影響を及ぼす.段階的に難易度を設定でき,かつ,楽しいバランス練習は,バランス機能が低下した様々な症例に適応すると考えられる.この練習効果を明らかにしていくことは,理学療法学研究として意義のあるものである.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), BcOF2045-BcOF2045, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572646016
  • NII論文ID
    130005016959
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.bcof2045.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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