船底形状靴着用時の歩行の変化

DOI
  • 櫻井 好美
    神奈川県立保健福祉大学リハビリテーション学科
  • 石井 慎一郎
    神奈川県立保健福祉大学リハビリテーション学科

書誌事項

タイトル別名
  • ─船底形状はロッカーファンクションを再現するか─

抄録

【はじめに、目的】  ソールを船底状にした靴は、靴底形状による回転作用によってロッカーファンクション(Rocker Function:RF)を再現し、足関節や足部に障害のある患者の荷重移動を円滑にするとして、糖尿病や関節リウマチ患者に処方されている。しかし、靴底形状靴の効果に関する先行研究では、RFに言及した報告はみあたらない。本研究では、RFの観点から船底形状靴の着用による歩行の変化を検討することを目的とした。【方法】 計測には市販されている船底形状靴(以下、靴)を使用し、同じデザインで23.5cmと26cmの2サイズを用意した。被験者は本研究の参加同意が得られた健常青年15名30肢(男6女9、平均年齢20.3±2.1歳、平均身長164.5±7.9cm、平均体重54.1±2.7)で、2サイズのうち一方を着用して歩行練習し、疼痛や違和感がないことを確認して計測した。課題は至適歩行とし、裸足と靴着用の2条件で5試行ずつ計測した。被験者の両肩峰、両股関節、両膝関節、両足関節、両側第1中足骨頭、両側第5中足骨頭、両踵骨に赤外線反射標点を貼付し、三次元動作解析装置VICON612(VICON PEAK社)を用いて、重心位置、重心進行方向加速度、下肢関節角度を算出した。なお、足部の標点については靴の上から貼付し、裸足時と靴着用時のそれぞれの静止立位角度を0°として計算した。また床反力計(AMTI JAPAN社)のデータと角度データから関節モーメントと関節パワーを算出した。5試行のデータは波形同期平均ソフトEpsilon Sync ver.1.01(イプシロンアナライズ社)を用いて平均化し、被験者ごとの代表値とした。2条件の比較には対応のあるt検定を用いた。有意水準は1%とした。【倫理的配慮、説明と同意】  研究の実施に際して、所属施設の研究倫理審査委員会の承認を得た。【結果】  重心位置は立脚初期(以下、初期)と立脚後期(以下、後期)で差がみられ、靴歩行が有意に低くなった。重心進行方向加速度は初期ではマイナスに、後期ではプラスに靴歩行が有意に大きくなった。関節角度は、初期接地時の膝関節角度が裸足0.4°±1.3°、靴歩行3.8°±5.6°、初期の裸足19.6°±3.6°、靴歩行22.8°±8.9°となり靴歩行の角度とばらつきが大きくなった。足部角度は、裸足が回外位で接地して初期までに回内外がほぼ0°となり、後期に一度回外して回内するのに対し、靴歩行は回外位で接地して急激に回内し、徐々に回内角度を増しながら足尖離地となった。関節モーメントについて、靴歩行では初期接地後の足関節底屈モーメントには差がなかったが、その後の足関節背屈モーメントが有意に小さく、かつ、底屈モーメントに切り替わる時期が早くなった。パワーについて、靴歩行では初期の膝関節のマイナスのパワーが有意に大きくなり、足関節のプラスのパワーが有意に小さくなった。【考察】  立脚初期の足関節背屈モーメントは、足関節を中心として脛骨を前方に回転させ(Ankle Rocker)、重心の前方移動とともに膝関節の屈曲作用を生み、膝屈曲による衝撃吸収がなされる。この足関節の背屈モーメントが小さければ、膝関節の屈曲モーメントを大きくする必要があるが、靴歩行では背屈モーメントが小さいにも関わらず、膝の屈曲モーメントには差がなかった。これは、ソールのカーブが回転作用を生み、Ankle Rockerを代償していると考えた。しかしパワーの結果から、このとき膝関節は遠心性に強い力を発揮していることが分かった。つまり靴歩行では靴底形状による強制的な脛骨の前方回転によって膝が屈曲させられるために遠心性収縮を強めることで制動しており、裸足に比べて立脚初期の膝関節のコントロールが難しくなると考えた。その結果重心加速度がマイナスに大きくなり、初期の膝関節角度のばらつきが大きくなったと考えた。よって、正常なAnkle Rockerを再現しているとは言い難いといえる。 立脚後期には、身体の回転軸は足関節から中足指節関節へと移動し、Forefoot Rockerを形成する。Forefoot Rockerは重心の下降の円軌道を変化させ、下降を緩やかにすることで遊脚側の振り出し時間を稼いでいる。しかし、靴歩行ではForefoot Rockerが機能しないため、重心の下降が速まり、遊脚側に十分な振り出し時間を与えず、膝関節が伸展位になる前に初期接地を迎えていると考えられた。Forefoot Rockerが機能しない理由は、足部が立脚後期に回外しないことであると考えた。以上のことから、船底形状靴着用によって歩行中の正常な膝関節の運動が阻害される可能性があり、処方には注意が必要であると考えた。【理学療法学研究としての意義】  治療用だけでなく、ウォーキングシューズとして広く市販されている靴底形状靴の功罪について知見を得ることは、医療施設や地域での理学療法対象者に対する適応の検討や指導に有益であると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Ab0672-Ab0672, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572648192
  • NII論文ID
    130004692440
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ab0672.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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