胸郭形状が外腹斜筋に及ぼす影響
説明
【はじめに、目的】 臨床において、胸郭や体幹の正中化により姿勢や動作の改善が図られることを多く経験する。特に胸郭はその構造的特徴により偏位が生じやすく、容易に胸郭形状が変化することから、理学療法アプローチを行う機会が多い部位の一つである。胸郭の偏位および形状変形が生じる原因は多岐にわたるが、外腹斜筋活動の促通により胸郭の正中化や形状変化が促されることも多い。そこで、今回胸郭形状と外腹斜筋の関係性について姿勢測定機器と表面筋電図(以下EMG)を用いて比較検討した。【方法】 対象は健常成人男性11名(平均年齢25.6±4.4歳、平均身長169.5±8.2cm)とした。姿勢測定装置にはPosture analyzer PA200P(ザ・ビックスポーツ社製)を用い、矢状面からの撮影画像の解析を行った。左右の胸骨下角は剣状突起と第10肋骨を結んだラインと正中線のなす角度とした。また、外腹斜筋活動はEMGを用いて計測し、運動課題は徒手筋力検査法の段階5に基づいた背臥位からの体幹屈曲運動とした。EMGは多チャンネルテレメータシステムWEB7000(日本光電社製)を用い、電極はAldoらの方法に準じて外腹斜筋に貼付した。サンプリング周波数は1kHzとし、5秒間の体幹屈曲運動時の筋電波形をBIMUTAS-Video for WEB(キッセイコムテック社製)で取り込み、low cut filterで0~30Hz、high cut filterで500Hz以上の周波成分を処理した。また、正規化を目的として、外腹斜筋の最大等尺性随意位収縮を5秒間行い、安定した2秒間の筋電図積分値(以下IEMG)を基準として%IEMGを算出した。統計処理にはSPSSver13を用い、対応のあるt検定にて胸骨下角と外腹斜筋の%IEMGをそれぞれ左右で比較した。なお有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者にはヘルシンキ宣言に沿った同意説明文書を用いて本研究の趣旨を十分に説明し、同意を得たうえで実施した。【結果】 胸骨下角は右側で43.8±5.7°、左側は46.2±6.3°であり、左胸骨下角が有意に増加していた(p<0.05)。また、外腹斜筋の%IEMGは右側70.7±25.6%、左側61.6±27.1%と右外腹斜筋の筋活動が高い傾向であった。【考察】 本研究の結果より健常成人においても胸郭の形状は非対称であり、有意に右側の胸骨下角が減少していた。このことは、非対称性が動きを形成すると捉えることもできるが、胸郭の形状は健常成人においても非対称性になりやすいということを示しているものと推察する。胸郭はその特性により容易に形状が変化する部位であり、種々の要因により非対称に陥りやすい。体幹筋のなかでも最外層に位置し肋骨から対側の骨盤に向かって走行する外腹斜筋は、体幹回旋、側屈以外に肋骨を引き下げ、胸郭を正中方向へ安定させる作用をもつことが予測される。そのため、外腹斜筋活動の非対称性は胸郭の安定性を低下させ、胸郭の非対称性を形成する。本研究においても左側の胸骨下角が増大し、左外腹斜筋の活動が低い傾向にあったことは、左外腹斜筋活動の低下により、肋骨を引き下げるモーメントが減少した結果であると推測する。胸郭を含む体幹の偏位は筋長を変化させ、体幹筋の張力にアンバランスを生じることになる。体幹筋のアンバランスはさらなる体幹の偏位を助長し、悪循環を形成する結果となることも多い。このことを考慮すると体幹筋の作用により、体幹の正中化を保つことは非常に重要であり、体幹安定化筋の一つとして外腹斜筋の役割を明確にすることは理学療法を施行する上で有用であると考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果により、胸郭形状は外腹斜筋活動に関与する可能性が示された。今後、胸郭形状をより明確にするために、3次元的に捉え、他の体幹筋をはじめとする様々な要因を検討し、さらに具体的な体幹機能評価および治療を構築するための研究へと発展させる必要があるものと思われる。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2011 (0), Ab0681-Ab0681, 2012
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205572655488
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- NII論文ID
- 130004692449
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可