ホールド・リラックス手技と下部体幹の静止性収縮手技における施行時間の違いが他動・自動関節可動域に及ぼす効果
説明
【目的】関節可動域 (ROM) を増大させる方法として、直接的アプローチである持続伸張 (SS) 手技や固有受容性神経筋促通法 (PNF) のホールド・リラックス (HR) 手技がよく用いられ、多くの効果が報告されている(Tanigawa,1972; 武富ら, 1992; 和気ら, 1994.)。一方、間接的アプローチとしてPNFの骨盤の後方下制の中間域での静止性収縮 (SCPD) 手技が用いられている。SCPD手技は障害関節に直接アプローチが困難な場合にROMを改善するための有効な手段であると報告されている (新井ら, 1999; 2002.)。我々は、SS手技、HR手技、SCPD手技を20秒施行し、膝関節伸展可動域に及ぼす効果を検証した結果、他動関節可動域 (PROM)・自動関節可動域 (AROM) 共にSCPD手技に効果が認められ、PROMとAROMに効果の差は認められなかったことを報告している (白谷ら, 2007; 2008.)。SS手技やHR手技おいては、施行時間の違いがROMに及ぼす効果について検証されている (Nelsonら, 1991; Bandyら, 1994; Bonnarら, 2004.) 。しかし、施行時間を考慮したHR手技とSCPD手技のPROM及びAROMの効果の差異を検証した論文は認められない。そこでこの研究の目的は、健常者を対象に施行時間を考慮したHR手技とSCPD手技のPROM及びAROMの効果の差異を検証することである。<BR>【方法】対象は神経学的および整形外科的疾患を有しない健常者60名 (男性36名、女性24名、平均年齢±標準偏差21.1±1.7歳) であった。60名を無作為に12群に配置した (20秒SS手技のPROM群、20秒HR手技のPROM群、20秒SCPD手技のPROM群、40秒SS手技のPROM群、40秒HR手技のPROM群、40秒SCPD手技のPROM群、20秒SS手技のAROM群、20秒HR手技のAROM群、20秒SCPD手技のAROM群、40秒SS手技のAROM群、40秒HR手技のAROM群、40秒SCPD手技のAROM群)。手技の方法は、SS手技はハムストリングスの持続伸張 (膝窩部に痛みが生じない程度)、HR手技はハムストリングス伸張位で、下肢伸展-外転-内旋パターン方向に対し抵抗を加え、静止性収縮できる最大抵抗量で行い、SCPD手技は骨盤の後方下制の中間域での静止性収縮を2~3kgの抵抗量で行った。手技の施行時間は20秒あるいは40秒とした。膝関節伸展制限の測定方法は、測定側の股関節を90°屈曲位にした背臥位にて測定側の股関節を90°屈曲位で固定し、他動あるいは自動的に膝関節を伸展させた角度をゴニオメーターを用い測定した。データの分析方法は、ROM計測結果を従属変数として、12群 (PRPMかARPM-手技-施行時間を組み合わせた) を要因とした一元配置分散分析を行った。この後、多重比較検定 (Tukey) を行った。有意水準は5%とした。<BR>【説明と同意】本研究は首都大学東京安全倫理審査委員会において承認を得、対象者には、研究の概要と得られたデータを基にして学会発表を行うことを同意説明文に基づいて説明した後に、研究同意書に署名を得た人を対象とした。また、対象者には研究同意の撤回がいつでも可能なことを説明した。<BR>【結果】一元配置分散分析の結果、群に主効果が認められた。多重比較検定の結果、40秒SS手技のPROM群と40秒SCPD手技のPROM群間、20秒SS手技のAROM群と40秒SCPD手技AROM群間、20秒SS手技のAROM群と40秒SCPD手技のPROM群間において有意差が認められた。<BR>【考察】PROMでは40秒SS手技より40秒SCPD手技において有意な増大が認められ、AROMでは20秒SS手技より40秒SCPD手技において有意な増大が認められた。また、20秒SS手技のAROMより40秒SCPD手技のPROMにおいて有意な増大が認められた。清水ら (2007) は膝関節伸展制限を有する整形外科疾患患者を対象にHR手技とSCPD手技の効果の差を検証した結果、SS手技と比較してHR手技とSCPD手技のPROM・AROMが有意に改善し、HR手技とSCPD手技に効果の差はないことを報告している。また、白谷ら (2008) は健常者を対象にHR手技とSCPD手技の施行時間の違いがAROMに及ぼす効果の差異を比較した結果、20秒SS手技より40秒HR手技とSCPD手技のAROMが有意に増大し、HR手技とSCPD手技に効果の差はないことを報告している。今回の研究においてもPROMとAROMの増大が認められたが、その機序は明らかではない。<BR>【理学療法学研究としての意義】臨床的にSCPD手技の効果が高いと推測されたが、本研究により健常者であるがSCPD手技の有効性が示唆された。また、施行時間の効果は明らかではないが、収縮時間が長い方が効果的と示唆された。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2009 (0), C3O3072-C3O3072, 2010
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205572656896
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- NII論文ID
- 130004582358
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可