大腿切断者の走行動作分析

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • 大腿切断が走行動作中の体幹運動に及ぼす影響

抄録

【目的】<BR> 近年、障害者スポーツの社会的認知度は上がってきているが、大腿切断者の走行動作を分析した研究は少ない。また、大腿切断は断端長により切断側の可動域や筋力が大きく変化することが知られているが、大腿切断の走行において断端長を考慮した研究はない。本研究では、健常者と比して大腿切断者の走行動作を体幹に注目して分析することと、断端長による走行動作の違いを検討することを主たる目的とした。また、断端長に影響を受けるとされる切断側の股関節の可動域との関係も検討した。<BR><BR>【方法】<BR> 大腿切断者で走行可能な者7名(平均年齢24.1±4.8歳、平均身長170.1±6.5cm、切断からの年数8.9±5.2年)と、コントロール群として健常大学生7名(平均年齢23.9±5.0歳、平均身長167.7±3.1cm)を対象とした。大腿切断者が装着している膝継手、足部はそれぞれ普段の走行時に使用しているものを使用し、膝継手は義肢装具士が調節した。陸上競技場にて、スタートから30m、走行路から8mの地点に三脚とSONY製のDCR-PC300(30fps)を設置した。対象者の第7頚椎棘突起・第1仙椎棘突起にマーカーとしてピンポン玉を付着した。対象者は走行路を全力で走行し、その動作を矢状面上から撮影した。撮影したものをパソコンに取り込み、1ストライドを測定対象とした。水平線を基本軸、撮影時に付着した二つのマーカーを移動軸とし、得られた前方の角度を体幹前方角度とした。その他に、切断側の断端長と、自動運動と他動運動の両方で股関節の屈曲と伸展の可動域を両側測定した。股関節屈曲と伸展の可動域の和を股関節全可動域とした。統計処理は、健常者と大腿切断者の間で体幹前方角度の比較を行い、検定にはMann-Whitney 検定を用いた。また、大腿切断者間では、体幹前方角度と切断側股関節可動域の相関、体幹前方角度と断端長の相関を算出し、検定にはSpearmanの順位相関係数を用いた。有意確率は5%未満とした。<BR><BR>【説明と同意】<BR> 対象者には書面にて十分な説明を行い、同意を得た。<BR><BR>【結果】<BR> 大腿切断者の走行では、切断側の股関節が屈曲し大腿が最も引き上げられる時に体幹前方角度が大きくなり、体幹が後傾した。体幹前方角度の最大値は、健常者は81.5±5.2°、大腿切断者は92.9±5.7°となり、大腿切断者が有意に大きかった(p<0.01)。体幹前方角度の最小値では有意差が見られなかった。1ストライド内の体幹前方角度の最大値と最小値の角度の差は、健常者は6.3±1.9°、大腿切断者は22.3±5.0°となり、有意に大腿切断者が大きかった(p<0.01)。切断者間の比較では、体幹前方角度の最大値と他動運動の股関節全可動域との間に負の相関が認められた(r=-0.771,p=0.041)。体幹前方角度の最大値と股関節伸展可動域・屈曲可動域は自動運動、他動運動において相関は認められず、自動運動での股関節全可動域との間にも相関は認められなかった。また、断端長と体幹前方角度の最大値の相関も認められなかった。<BR><BR>【考察】<BR> 健常者と大腿切断者の比較では、切断者のほうが体幹前方角度の最大値が大きく、最大値と最小値の差も大きくなった。切断者は走行中に体幹動作に前後の大きな振幅動作が見られること、走行中に体幹が後傾することを示している。大腿切断者の体幹前方角度が最大になる時期は、切断側の股関節が屈曲し、大腿を高く引き上げる時期であった。体幹前方角度の最大値は、切断側の他動股関節全可動域と相関した。短距離走において速く走行を行うためには大腿を高く引き上げる必要がある。つまり、大腿の引き上げは切断側の他動股関節全可動域に影響され、他動股関節全可動域が小さい人ほど体幹の後傾によって大腿を引き上げていると考えられる。また、他動運動に相関したことから、走行中の切断側の股関節には義足の慣性が力を与えていると考えられる。本研究では断端長と走行動作の関係を示すことができなかった。今後は断端長と関係があると言われる筋力との関係も検討する必要があると考える。また、体幹前傾角度とパフォーマンスとの関係も研究する必用がある。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 障害者スポーツは、スポーツの知識の他にも生態力学や福祉用具の知識が必要であり、バイオメカニクスと福祉用具の知識を持った理学療法士の介入が有用である。本研究では、大腿切断者の走行動作の中で、体幹と断端長・可動域に注目して研究を行い、大腿切断者に特異的な体幹の動作を示すことができた。しかし、大腿切断者の走行動作の研究はまだ少なく、走行動作の十分な理解は得られていない。本研究は大腿切断者の走行動作に介入する際の、走行動作を理解することに役割をはたすと考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), C4P1111-C4P1111, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572678528
  • NII論文ID
    130004582364
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.c4p1111.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ