若年者と高齢者における外乱刺激に対する空間的身体動揺の検討

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【はじめに、目的】 姿勢制御時の筋活動と重心動揺についての研究は多く報告されているが、空間的な身体の動きを解析した研究は少ない。また姿勢制御において頭部安定の重要性が知られているが、重心動揺時における頭部の動揺とそれらを制御する筋活動を同時に検討しているものは少ない。そこで我々は、重心動揺に加え、表面筋電図と加速度計を使用し、外乱刺激時の重心動揺、頭部の動揺と身体の各部位における筋活動を求め、それぞれの特徴を若年者と高齢者で比較検討を行った。【方法】 対象は本研究の趣旨を説明し同意が得られた健常若年者9名(平均年齢19.33±0.5歳)と健常高齢者8名(平均年齢67.0±5.1歳)である。重心動揺の測定はNeurocom社製EquiTest®を使用し、Sensory Organazation Test(以下SOT)にて行った。SOTの条件は、Condition1(以下C1)は前景固定・開眼、Condition2(以下C2)は閉眼・床面固定、Condition3(以下C3)は前景動揺・床面固定、Condition4(以下C4)は前景固定・床面動揺、Condition5(以下C5)は閉眼で床面動揺、Condition6(以下C6)は前景動揺・床面動揺の条件である。重心動揺の指標としては、重心動揺の角速度からEquilibrium score(以下:EQ score)を算出した。頭部の動きおよび筋電図の測定は、日本光電社製テレメーターピッカ、マルチテレメーターシステムWEB-5000を使用した。加速度計は頭頂部に装着し、外乱刺激時における頭部の前後・左右・上下それぞれの加速度を測定し、最大値―最小値の加速度を求めた。筋電図は僧帽筋上部線維、胸鎖乳突筋、腹直筋、脊柱起立筋、中殿筋、外側広筋、大腿二頭筋、前脛骨筋、腓腹筋に装着し筋活動を測定した。筋活動は積分値から面積を求め、さらにC1に対するC2からC6の筋活動の割合を算出した。統計はSPSSを用いてcondition間におけるEQ scoreの比較にはone way ANOVAを使用し、群間の比較には対応のないt検定を使用した。また加速度、筋電図の比較にはMann-Whitneyの検定にて行い、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 日本福祉大学倫理委員会の承諾を得たのち、対象者に本研究の主旨を説明し書面にて同意を得た。【結果】 EQ scoreは、若年者ではC1が92、C2が92、C3が80、C4が80、C5が74、C6が76となった。 高齢者では、C1が92、C2が90、C3が91、C4が74、C5が55、C6が59となり、若年者と高齢者ともにC4、C5、C6でEQ scoreが大きく低下した。また若年者と高齢者の比較ではC2、C5、C6において若年者よりも高齢者の方がEQ scoreが有意に低下した。加速度計は、C5の前後方向、C6の上下方向において若年者と比較して高齢者の加速度が有意に増加した。筋電図は、C5の前脛骨筋、胸鎖乳突筋、C6の腹直筋において、若年者と比較して高齢者の筋活動が大きかった。【考察】 姿勢を制御するためには、視覚、体性感覚、前庭感覚の入力が重要であるが、SOTでは異なった条件で感覚入力し、様々な状況下で重心動揺の計測が可能である。今回EQ scoreの結果からC4、C5、C6で若年者、高齢者ともに姿勢を保持することがより困難になっていると推察される。また高齢者は若年者と比較してC2、C5、C6で重心動揺が増加していた事から、高齢者において姿勢保持では視覚に頼る傾向があり、さらにC5の結果より前庭機能が低下している事が考えられる。そしてC5における胸鎖乳突筋やC6における腹直筋の筋活動は若年者よりも高齢者の方が高くなっていたが、頭部の加速度は高齢者において大きくなった。このことから外乱刺激時の姿勢制御において、高齢者は重心動揺時に体幹や頸部をコントロールするための筋収縮が効率的に行われず、頭部が動揺したと考えられる。また我々は若年者の身体動揺が分節的でしなる動きであるのに対し、高齢者では分節の動きが少なく棒状の動きが特徴であると報告した(2011.体力医学会)。今回も同様に、高齢者は筋活動から分かるように頭部を固定した状態で動揺している事が推察され、さらに身体動揺に対して頭部や体幹に大きな筋活動が必要であると考えられる。今回は外乱刺激時の重心動揺、加速度、筋活動に関する20秒間の平均値での解析であったため、時系列上での解析は行っていない。そのため身体の動き出しや筋収縮のタイミングなどは不明である。【理学療法学研究としての意義】 高齢者では日常生活において、不安定な床面や暗闇での歩行において転倒することが多い。我々は暗闇や柔らかい床上での姿勢保持といった外乱刺激に対するバランス保持について身体機能の詳細な分析を行い、転倒予防等に役立てるため理学療法プログラムの作成に結び付ける必要がある。

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572751360
  • NII Article ID
    130004692434
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ab0666.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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