選択的脊髄後根切断術後の脳性まひ児9例の中期的機能変化

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【はじめに】選択的脊髄後根切断術(以下SDR)は求心性線維である脊髄神経後根を切断することによって痙縮を軽減する手術であり、日本では1996年から施行されるようになっている。当センターでは2008年より脳神経外科において取り入れられ、理学療法士が術中の評価も含めて関わっている。本研究の目的はSDR前後の運動機能を後方視的に調査しSDR及び理学療法の中期的な効果を明らかにすることである。【方法】対象は2008年1月から2012年1月までの間に当センターでSDR及び理学療法(入院中3-5日/週、退院後~就学1回/週、各40分/回)を受けた10例のうち術前および術後1年以上経過が追えた9例(男児6名女児3名。手術時年齢4.6±1.2)。既往歴、合併症、切断率、粗大運動能力分類システム(以下GMFCS)、関節可動域(以下ROM)、粗大運動能力評価尺度(以下GMFM)についてカルテより抽出し後方視的に調査した。 統計学的処理においてGMFM-66・GMFM-66percentileは術前・術後1年6ヶ月±3ヶ月のデータを、ROMは股関節外転(以下Abd)・Straight leg rising(以下SLR)・足関節背屈(以下DKE)の術前・術後2ヶ月・術後1年のデータを使用した。GMFM-66、GMFM-66percentileについて術前後の変化を調べるために対応のあるt検定を行った。ROMについては反復測定分散分析を行い、そこで有意差が認められた場合は多重比較を行った。また、DKEとSLRでは正規分布が認められなかったためFriedman検定を行った。全ての検定の統計学的有意水準は5%とした。統計処理は統計ソフトR2.8.1を使用した。【倫理的配慮】発表に際し個人が特定できないよう統計的に処理し、対象者ご本人および保護者へ目的を説明し同意を得た。【結果】術前GMFCSはレベル4が3名で最も多くレベル1・2・3が各2名であった。SDR(平均切断率46.6%)後はレベル2の1名がレベル1に、レベル4の2名がレベル3に上がった。骨関節系合併症は1名に先天性股関節脱臼があった。術前にボトックス施注したものは2名であった。GMFM-66・GMFM-66percentileは、術前42.2±13.6・45.0±21.4%、術後53.2±13.6、45.0±20.8%であった(n=7)。GMFM-66では有意差を認めた(P=0.013、差の平均値3.9、差の95%CI;1.1~6.7)。GMFM-66percentileでは有意差を認めなかった(P=1.0)。ROMは全ての項目において有意差を認めた(p<0.05)。Abd、DKEでは術前・術後2ヶ月・術後1年で有意差を認め、SLRでは術前と術後1年で有意差を認めた。【考察】GMFMは発達による変化の区別が困難であったものの、術前後において有意差があった。レベル3の1名のみ術後2年の時点で低下を認めた。これは理学療法頻度を就学に伴い週1回から月1回に減少させた時期と重なっていた。先行研究ではGMFM66はGMFCSレベル3-4で6-7歳以降に低下すると述べられており、他のGMFCSレベル3-4の3例が改善を維持していることはGMFCSに向上があったことも含め有意義であった。ROMの改善はDKE・Abdは術後2ヶ月から改善を認めているのに対しSLRは1年後で改善が得られたことから、痙縮軽減および侵害刺激の入力量減少などに伴い患児・家族がストレッチングに協力的になったことによる2次的な影響が考えられた。以上より先行研究同様、SDRおよび術後の継続的な理学療法の必要性が再確認された。今後も症例数を増やし長期的な調査へ繋げていくために、評価項目の見直しと評価用紙の改善を行い効率化を図っている。SDR術前後の理学療法の重要性を示すべく、慎重に治療経験を重ねて行きたい。【理学療法学研究としての意義】日本における脳性まひ児に対する痙縮治療の選択肢は近年大幅に広がっており、どの治療においても理学療法の重要性は高い。SDR後の経年変化を調査していくことでより適応性を明確にし、適切な治療の選択と理学療法の提供に繋げていける。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100550-48100550, 2013

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

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