思春期特発性側弯症患者における脊柱変形と体幹・下肢筋力の関係

  • 三森 由香子
    慶應義塾大学病院 リハビリテーション科 首都大学東京 人間健康科学研究科 理学療法学域専攻
  • 長谷 公隆
    慶應義塾大学 医学部 リハビリテーション医学教室
  • 新田 收
    首都大学東京 人間健康科学研究科 理学療法学域専攻
  • 渡辺 航太
    慶應義塾大学 先進脊椎脊髄病治療学
  • 松本 守雄
    慶應義塾大学 整形外科学教室

説明

【目的】 思春期特発性側弯症患者は左右非対称的な姿勢を呈しており,体幹の不均衡は下肢へ影響を及ぼすと考えられる。しかし思春期特発性側弯症患者の身体特性については,体幹の筋力に関する報告が散見されるのみで,その他についてはあまり検討されていない。そこで本研究の目的は,体幹および下肢の筋力を評価し左右差および脊柱変形との関係について検討することとした。【対象・方法】 当院整形外科にて思春期特発性側弯症と診断され,手術目的に入院した患者のうち,研究に同意の得られた39例(全例女性,平均年齢18.6±6.0歳,平均身長155.4±5.0cm,平均体重46.0±5.4kg)を対象とした。評価項目は,レントゲン所見よりCobb角および脊椎変形の頂椎高位,筋力は,体幹屈曲・伸展・左右側屈,股関節屈曲・外転,膝関節伸展筋力とした。筋力の測定には,Hand Held Dynamometer(anima社製 μTasF-1,以下HHD)を使用した。体幹筋力の計測は端座位にて,足底非接地,両上肢は胸の前で組んだ状態で体幹を固定して,屈曲では胸骨部に,伸展では第3胸椎レベルに,左右側屈はそれぞれ肩峰にセンサーパッドがあたるようにして各筋力を測定した。下肢筋力は,徒手筋力検査法に準じて股関節屈曲および膝関節伸展は座位にて,股関節外転は背臥位にて測定した。各項目ともそれぞれ最大等尺性収縮を3回測定したうちの最大値を用い,体重で除した値(N/kg)を算出した。算出した値を脊柱変形のメインカーブの方向より凹側と凸側に分類したのち,対応のあるt-検定を用いて体幹側屈および下肢筋力の凹凸比を検討した。さらに各筋力とCobb角および脊柱変形高位との関係をSpearmanの順位相関係数を用いて検定した。統計学的分析にはSPSSVer.11を使用し,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮・説明と同意】 本研究は,慶應義塾大学病院倫理審査委員会の承認の後,本人および未成年者に対しては保護者へも説明を行い,同意を得たうえで実施した。【結果】 対象者の平均Cobb角は54.1±11.2°(37.5~85.6°)で,頂椎高位は胸椎レベルが31例(全例右凸),腰椎レベルが8例(全例左凸)であった。筋力は体幹屈曲1.6±0.4N/kg,体幹伸展1.8±0.4N/kg,体幹凹側側屈1.9±0.5N/kg,体幹凸側側屈1.9±0.4N/kg,股関節屈曲(以下凹側/凸側)2.6±0.5/2.5±0.4N/kg,股関節外転2.4±0.5/2.4±0.6N/kg,膝関節伸展3.6±0.8/3.7±0.8N/kgであり,いずれの項目においても凹側と凸側との間に有意な差を認めなかった。また,Cobb角や脊柱変形の高位との間にも有意な相関関係を認めなかった。以上より,今回の対象においては,体幹および下肢筋力の左右差を認めず,Cobb角の大きさや脊柱変形の高位によっても影響を受けないことが分かった。【考察】 思春期特発性側弯症患者は左右非対称な姿勢により,体幹および下肢筋力の左右差を有することを予測していたが,いずれにおいても左右差を認めない結果となった。これは,姿勢保持に関与する筋力は,最大筋力のうち僅かであり,支持するべき体幹が非対称的であっても,最大筋出力には影響を与えなかったと考える。また,各筋力はCobb角や変形高位とは有意な相関を認めなかった。体幹筋は脊柱変形により筋長が変化し,とくに側屈においては筋出力に左右差が生じると考えられるが,今回の評価方法では,骨盤周囲など体幹筋以外の筋も同時に活動し,単純に体幹筋力を反映したものではなかったと考えられる。本研究における体幹筋力は,いずれにおいても,過去に報告されている健常者の値よりも低値を示しており,とくに体幹伸展でより低値となっていた。また,下肢においても同様に過去の報告より低値を示していた。以上より,特発性側弯症患者においては,体幹および下肢筋力の左右差の改善よりも,全体的な筋力増強が必要であり,中でも体幹伸展筋力の増強が推奨されることが示唆された。今回は屈曲・伸展,側屈・外転など2平面での評価しか行えていないが,特発性側弯症患者の脊椎は3次元的な変形を呈しているため,今後は回旋等も含め3次元的な評価も必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】 思春期特発性側弯症患者の体幹および下肢筋力を測定した結果,左右差を認めず,脊柱変形との有意な関係も認めないが,健常者の筋力と比較して全体的に低値を示す傾向にあった。本結果は,特発性側弯症患者における理学療法介入の手掛かりになると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Cb0739-Cb0739, 2012

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572815872
  • NII論文ID
    130004693065
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.cb0739.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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