頸髄症における10m歩行テストの有用性

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抄録

【はじめに、目的】 歩行能力の評価には10m歩行テストが一般的と思われるが,頸髄症においては30m歩行テストを用いた報告が多い.先行研究において30m歩行テストは機能スコアやMRI上の脊髄圧迫度との相関があるとされ,頚髄症患者の評価法として広く用いられている.しかし,頚髄症における10m歩行テストの有用性を検討した報告は渉猟し得ない.そこで,本研究では頸髄症における10m歩行テストの有用性を検討した.【方法】 対象は頚髄症と診断され,評価可能であった71例(男性40名,女性31名,平均年齢69.7±12.1歳)である.疾患の内訳は頚椎症性脊髄症60例.頚椎後縦靭帯骨化症11例であった. 歩行能力の評価として最大歩行速度における10m歩行の歩行時間と歩数を測定した.健康関連QOLの評価としてMOS Short-Form 36-Item Health Survey(以下SF-36)を用い,8つの下位尺度である身体機能(以下PF),日常役割機能-身体(以下RP),体の痛み(以下BP),全体的健康感(以下GH),活力(以下VT),社会生活機能(以下SF),日常役割機能-精神(以下RE),心の健康(以下MH)をそれぞれ100点満点に換算した.疾患特異的評価として日本整形外科学会により策定された頚部脊髄症評価質問票(以下JOACMEQ)を用いて頚椎機能,上肢運動機能,下肢運動機能,膀胱機能,QOLの5つのスコアを所定の計算式を用いて点数化した. 10m歩行の歩行時間と歩数,SF-36の下位尺度得点,JOACMEQの各スコアについて関連性を検討した。統計学的検討はSpearmanの順位相関検定を用い,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には本研究に関して口頭にて説明し、書面にて同意を得た。【結果】 10m歩行時間はPF(r=-0.43),RP(r=-0.26),RE(r=-0.31)と,歩数はPF(r=-0.47),RP(r=-0.28),BP(r=-0.24),SF(r=-0.29),RE(r=-0.34)と有意に相関した. 歩行とJOACMEQにおいて,10m歩行時間と歩数はともに頚椎機能(r=-0.31,r=-0.29)上肢運動機能(r=-0.43,r=-0.41),下肢運動機能(r=-0.51,r=-0.46)と有意に相関した. 【考察】 10m歩行時間および歩数は下肢の運動機能を反映し,身体面の下位尺度であるPF,RPと相関を示したと考えられる.実際にPFやRPの質問は歩行,階段,仕事などに関する内容が多く,歩行能力を反映しやすいと考えられた.また精神面の下位尺度であるREとの相関もみられ,歩数はBP,SFとの相関もみられた.これらは痛みが身体機能に影響し,歩行能力の低下が心理的に影響するなど,複数の因子が関係し合っているものと考えられる.SFは人との付き合いに関する質問内容であるが,歩行能力の低下が外出や活動を妨げる要因になると予想された.歩行時間,歩数ともにJOACMEQの頚椎機能,上肢運動機能,下肢運動機能に相関が認められた.とくに下肢運動機能との相関が高く,下肢の運動機能障害が歩行能力に大きく影響していることが示唆された.頚椎機能,上肢運動機能においても機能障害の重症度や頚椎・上肢機能の歩行への影響が反映されたと考えられる. 先行研究では30m歩行テストとJOACMEQの下肢運動機能や他の下肢機能評価と相関があったと報告している.本研究では10m歩行テストにおいてもSF-36のPFやJOACMEQの下肢運動機能と強く相関し,さらにSF-36の一部の精神面の下位尺度と弱い相関を示し,頚髄症の評価法として有用であると考えられる.【理学療法学研究としての意義】 健康関連QOLと疾患特異的評価との関連性を検討し,頚髄症患者における10m歩行テストの有用性が示された.より簡便に実施可能な歩行テストとして,頚髄症患者の評価に使用できると期待される.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Cb0735-Cb0735, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572820480
  • NII論文ID
    130004693061
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.cb0735.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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