人工股関節全置換術後に実用的脚長差が生じる症例の特徴

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  • ― 術後2週時での多重ロジスティック回帰分析による検討 ―

抄録

【はじめに、目的】 我々は先行研究にて,人工股関節全置換術(THA)後の脚長差の変化を調査した.その結果から,術後3日時には,X線上で計測する脚長差(X線差)よりも,患者が感じる脚長差(実用差)が大きく,術後2週時には,これらの脚長差は近似することを報告した.しかし,これらの症例の中には術後2週時においても実用差がX線差より高値を示す症例も存在した.そこで,本研究では,THA後2週時における実用差が,X線差よりも高値を示す症例の特徴を明らかにすることを目的とした.【方法】 対象は2010年6月から2011年5月に発育性股関節形成不全により初回片側THAを行い,評価が可能であった89例(女性81例,男性8例,年齢62.8±9.1歳)とした.脊柱や下肢に脚長差へ影響を及ぼす整形外科的手術の既往歴がある者,膝伸展-5°以上の膝屈曲拘縮を有する者は対象から除外した.実用差は立位で足底に5mmの板を段階的に入れ,患者の脚長差感が消失する厚さとした.X線差は涙痕間線から小転子最頂部までの距離の左右差とした.検討項目はTHA実施時の年齢,BMI,非術側股関節病期分類,脚延長量,術前・術後2週時の疼痛(WOMACの痛みとこわばりの項目の合計点),骨盤側傾,骨盤前後傾,オフセット長,前捻角とした.統計的解析は尤度比・変数増加法による多重ロジスティック回帰分析を行った.目的変数は,術後2週時の実用差がX線差より5mm以上高値の群(高値群)とその他の群(非高値群)に分けた値とした.説明変数は検討項目とした.また,多重共線性を考慮し,事前に散布図を観察した.著しく直線関係を示す項目が存在する場合は,それらの項目のうち目的変数との関連が低い項目を除外した.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】この研究はヘルシンキ宣言に沿って行った.データの基となった評価項目は日常診療でも必要な情報である.しかし,対象者には,事前に本研究の目的,方法,研究への参加の任意性と同意撤回の自由,プライバシー保護についての十分な説明を行い,同意を得られた者のみ本調査を行った.【結果】 対象の89例は高値群19名(21%),非高値群70名(79%)に分けられた.両群の基本情報(高値群/非高値群)は,年齢(62.1±9.9歳/61.7±8.5歳),BMI(22.8±2.6/23.9±4.0),非術側股関節病期分類[正常・前期;5名(26%)/6名(9%),初期;11名(58%)/35名(50%),進行期;2名(11%)/23名(33%),末期;1名(5%)/6名(9%)]であった.両群の脚長差は,X線差(術前;-11.9±6.7mm/-8.2±8.0mm,術後2週時;2.2±3.3mm/6.2±5.6mm)実用差(術前;-2.4±5.9mm/-4.5±7.5mm,術後2週時;10.5±5.7mm/4.2±4.9mm)であった.多重ロジスティック回帰分析の結果,術後2週時の骨盤側傾(OR:1.22,95%CI:1.02-1.46)と骨盤前後傾の術前後の変化量(OR:1.59,95%CI:1.15-2.20)が選択された.術後2週時の骨盤側傾は0.8±3.3°/-0.9±2.9°であり,術側下がりの骨盤側傾が11名(58%)/23名(33%)であった.術後2週時の骨盤側傾は0.8±3.3°/-0.9±2.9°,骨盤前後傾の術前後の変化量は2.9±1.4°/1.5±1.9°であった.【考察】 全89例のうち,非高値群が70例(79%)であった.これは術後2週時には,X線差と実用差がほぼ同等となる症例が大部分を占めていることを示している.高値群19例(21%)の特徴は,多重ロジスティック回帰分析の結果と生データの観察から,術後2週時の術側下がりの骨盤側傾と術前後の骨盤前傾変化が大きいことが挙げられた.当院のTHAのカップ設置は原則として股関節の生体力学上の機能を考え,解剖学的な位置としている.そのため,大腿骨頭の扁平化や亜脱臼もしくは脱臼がみられる症例では股関節中心が下方へ引き下げられ,股関節周囲の軟部組織が伸張されて術側股関節の屈曲や外転拘縮を生じることがある.これらの拘縮が,骨盤傾斜に影響していると考える.このため後療法としては,軟部組織の緊張緩和のために,物理療法を併用したストレッチを行うなどの骨盤傾斜の改善を目指す介入が重要である.また,実用差が残存する症例には,X線差や骨盤傾斜を考慮の上,補高の高さを検討し使用することも必要である.また,本研究の検討項目以外に実用差に影響すると考えられる項目は,股関節の関節可動域や筋力,腰椎側方可動性,脊柱や下肢の変形などがある.また,THA後の感覚の変化や患者自身のパーソナリティなども影響するのではないかと考える.今後は,これらの項目を考慮した上で検討する必要がある.【理学療法学研究としての意義】 THA後2週時の実用差がX線差より高値を示す症例の特徴を明らかにした.この結果は,THA後の実用差の推移を予測する一助となり,また骨盤傾斜に対する理学療法介入の可能性を示したものである.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100033-48100033, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572830720
  • NII論文ID
    130004584633
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48100033.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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