人工膝関節置換術後1年における階段昇降能力は術後早期のTimed up and go testから予測できる
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【目的】 人工膝関節置換術(以下,TKA)術後において多くの施設で在院日数の短縮が図られているため,術後最低限の日常生活動作(以下,ADL)を獲得して退院となることが多い.さらに,TKA術後の関節可動域や下肢筋力などの身体機能やADLの回復には,術後6ヶ月から2年を要することが報告されており,入院中の多くの患者は退院後にどの程度までADLが回復するかを不安に感じている.このため,TKA術後早期のリハビリテーションに携わる理学療法士は,術後のADLの長期的な回復状況を予測し,適切な退院後のADL指導を行う必要があると考えられる.特に,TKA術後の階段昇降能力に関しては,手すりを使用して二足一段で行うように指導して退院となるために,術後の階段昇降能力の回復を客観的に予測できる因子を明らかとする必要があると思われる.しかし,先行研究において,TKA術後長期的な視点での階段昇降能力の回復状況を予測できる因子を検討した報告は少ない.そこで,本研究の目的は,TKA施行患者の入院中の運動機能やADL獲得状況からTKA術後1年における階段昇降能力が予測できるかどうかを検討することである. 【対象と方法】 対象はTKAを施行された30名(男性5名,女性25名,年齢67.4±12.4歳,BMI 24.6±3.9kg/m2)とした.対象者の原疾患の内訳は,変形性膝関節症15名と関節リウマチ15名であった.対象者は当院のTKA術後プロトコールに準じてリハビリテーションを行い,術後4週で退院となった.測定項目はTKA術後4週の歩行能力,膝関節可動域,下肢筋力,片脚立位時間とした.歩行能力としてはTimed up and go test(以下,TUG)を測定した.TUG は3mの直線歩行路にて行い,椅子に座った状態から,合図によって立ち上がり,3m先に設置されている目印を回って再び椅子に座るまでの時間を測定した.膝関節可動域の測定は,日本リハビリテーション医学会の測定方法に準じて術側の屈曲と伸展の可動域を計測し,5°単位にて記録した.下肢筋力は両側の膝伸展・屈曲筋力,脚伸展筋力とした.測定にはIsoforceGT-330(OG技研社製)を用い,等尺性筋力を測定した.筋力値として膝伸展・屈曲筋力はトルク体重比(Nm/kg),脚伸展筋力は体重比(N/kg)を算出した.それぞれ2回測定し最大値を採用した.また,入院期間中の術後のADLの獲得状況として,術後から杖歩行獲得までの期間を調査した.術後杖歩行獲得期間は,TKA術後から理学療法士が病棟内杖歩行を許可した日数までの期間とした.さらに,TKA術後1年の階段昇降能力をKnee Society Scaleを用いて評価した.統計処理には,階段昇降能力と各測定項目の関連性の検討にはSpearmanの相関係数を用いた.また,階段昇降能力と有意な相関関係を認めた項目を説明変数,階段昇降能力を目的変数としたStepwise重回帰分析を行い,統計学的有意基準は危険率5%未満とした.【説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づいて実施し,各対象者に本研究の趣旨と目的を詳細に説明し,参加の同意を得た.【結果と考察】 TKA術後1年の階段昇降能力の平均値は35.0±11.4であった.階段昇降能力の詳細は,手すりなしで一足一段にて昇降可能が6名,昇降のいずれかに手すりが必要なのが9名,昇降ともに手すりが必要なのが12名,手すりで昇段は可能で降段が不可能なのが2名,昇降不可能が1名であった.TKA術後1年の階段昇降能力と有意な相関関係を認めたのは,年齢(r=-0.52),TUG(r=-0.59),非術側脚伸展筋力(r=0.38),杖歩行獲得期間(r=-0.52)であった.さらに,重回帰分析の結果より,TKA術後1年の階段昇降能力を決定する因子として術後4週のTUGが選択された.TUGの標準偏回帰係数は-1.54であり,この回帰式の修正済み決定係数はR2=0.47であった.以上より,TKA術後4週でのTUGが速い症例では術後1年の階段昇降能力が高くなることが明らかとなり.TKA術後4週におけるTUGは術後1年の階段昇降能力を予測する上で最も有用な評価項目であることが示された.【理学療法学研究としての意義】 TKA術後1年における階段昇降能力を術後4週のTUGから予測することができることが明らかとなった.このことは,TKA術後の退院後の適切なADL指導を行うための有用な情報であることから,理学療法研究として意義のある研究データであると考えられた.
Journal
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- Congress of the Japanese Physical Therapy Association
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Congress of the Japanese Physical Therapy Association 2011 (0), Cb0725-Cb0725, 2012
Japanese Physical Therapy Association(Renamed Japanese Society of Physical Therapy)
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Details 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205572840192
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- NII Article ID
- 130004693051
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- Text Lang
- ja
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- Data Source
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- JaLC
- CiNii Articles
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- Abstract License Flag
- Disallowed