理学療法学専攻の初年次教育の取り組みについて

DOI
  • 田邊 素子
    東北福祉大学健康科学部リハビリテーション学科

抄録

【はじめに、目的】 大学教育において在学中に学生たちにどのような能力を身につけさせるか、いわゆる学士力ということが重要視されている。本学においても、学士力の向上として、汎用的スキルをみにつけることを目的に2011年度からカリキュラム改訂を進めている。初年次教育ではリエゾンゼミIとして学部共通の必修科目を設定し、独自のテキスト(TFUリエゾンゼミ・ナビ 『学びとの出会い』http://www.tfu.ac.jp/liaison/edu/index.html)を使用しての教育が開始されている。内容は、高校から大学への学習スタイルの変換のための学びの基本、キャンパス生活、学習スキル、情報リテラシー、コミュニケーションスキル、問題解決、自己管理、キャリア形成などからなる。理学療法学専攻でも、問題解決としてワールドカフェ、フィールドワーク、プレゼンテーション技術の獲得など多岐にわたって展開している。理学療法士の臨床ではコミュニケーションに代表される社会的スキルが重要であり、養成校時代にスキルの向上が求められている。しかし多くの報告にあるように、最近の学生は、少子・核家族化、インターネットや携帯電話やメールなど非接触型のコミュニケーション場面が多く、社会的スキルは不十分とされている。また、社会的スキルは自己効力感との関連性が高いとされており、社会的スキルの介入が自己効力感へ影響する可能性も考えられる。自己効力感が高めることは臨床実習というハードルを向える学生にとって有益である。今回理学療法学専攻1年生を対象に、社会的スキルと自己効力感に関係を明らかにする目的で調査をおこなった。【方法】 理学療法学専攻1年生44名に対し、質問紙にて調査した。社会的スキルは、菊池によるKikuchi’s Scale of Social Skills 18 items(以下、Kiss-18)を使用した。この尺度は18項目、5段階のリッカートスケールで18~90点であり、本邦では社会的スキルの測定として広く使用されている。自己効力感の測定は坂野らの一般性セルフエフィカシー尺度(以下、GSE)を使用した。これは16項目で2件法による尺度である。解析は、Kiss-18総合点について対象者と先行研究による一般大学生の平均点の比較をt検定にて、GSE総合点についても同様に対象者と一般大学生の平均点の比較をt検定、Kiss-18とGSEについてSpearman相関係数をもとめた。解析は危険率5%未満を統計学的有意とし、統計ソフトはSPSS 17.0 を使用した。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者に、調査目的、結果は個人が特定されない形で統計処理されること、調査に不参加の場合も不利益は生じないことを説明し、調査参加の同意を得た。【結果】 対象学生44名(男性26名、女性18名)から調査票を回収した。Kiss-18の総得点の平均点は60.73±6.6、GSE総得点の平均点は6.70±3.7であった。対象学生のKiss-18総得点は一般大学生より有意に点数が高かった(p=0.002)。GSEは一般大学生と有意な差はなかった(p=0.824)。Kiss-18総得点とGSE総得点には有意な相関(rs=0.66,p=0.00)がみられた。【考察】 対象学生の社会的スキルの平均点は先行研究による大学生の平均点より高く、本学学生の社会的スキルは一般の大学生より高いことが示唆された。しかし、自己効力感は一般大学生と差はなかった。このことは、対象学生は、自己効力感はさほどでもないにもかかわらず、自分の社会的スキルは高いと認識していると考えられ、その背景には、コミュニケーションに関わる内容も含めた本学の初年次教育が影響している可能性があるかもしれない。社会的スキルと自己効力感が有意な相関を示した。社会的スキルが高い学生ほど、自己効力感が高い傾向にあることが明らかにされた。自己効力感を高めるには、代理的体験や言語的説得、情動喚起などいくつかの要因があるが、その具体的アプローチはまだ明らかにされていない。今回の結果から、今後に社会的スキルへの介入が自己効力感に影響する可能性を検討する意義があると考えることができる。今回は、横断的な調査であり、初年次の限られた一時点の状況についての調査である。教育内容による影響を調べるためには、社会的スキルと自己効力感について継続的な変化を追うことが必要である。【理学療法学研究としての意義】 理学療法士にとって社会的スキルの獲得は重要である。理学療法士養成の初年次教育から、社会的スキルを意識した介入を教育内容に反映させることが重要であると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Gb1453-Gb1453, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572846464
  • NII論文ID
    130004693713
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.gb1453.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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