臨床実習における理学療法学科学生の心理的ストレス反応の変化について

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抄録

【はじめに、目的】 理学療法士を養成する教育課程の中で、評価実習及び総合実習は最も重要な科目である。しかし、学生はこれらの実習の意義を理解しているにもかかわらず、実習における訓練目標の設定や訓練プログラムの実施、さらにはコミュニケーションや信頼関係の構築等に、多くの不安感と脱力感を経験しているようである。本研究ではこれらの感情を測定するため「ストレス反応」の指標を用いて測定し、実習期間を通して、学生のストレス反応がどのように推移するのかを明らかにすることを目的とした。【方法】 1_対象者:理学療法学科3年生37名(男子31名、女子6名)平均年齢30.14歳±5.55歳2_方法:調査時期及び実習期間:評価実習(4週間)および長期実習(7週間)について、それぞれの直前・最中・直後に、計6回実施した。第1回調査時期を「評価前」、第2回を「評価中」、第3回を「評価後」、第4回を「長期前」、第5回を「長期中」、第6回を「長期後」と以下、表記する。調査内容:ストレス反応尺度:尾関が作成した「ストレス自己評価尺度」の中の「ストレス反応尺度」を用いた。「情動的反応」「認知・行動的反応」「身体的反応」の3つの下位尺度項目(合計48項目)からなる。4段階評定法で調査した。実習不安に対するアンケート:実習に対して学生が抱える不安について、学生の感想から項目を独自に作成した。「個人の知識・技術面に対する不安」(11項目)、「指導者との関係」(12項目)、「患者との関係」(10項目)、「生活面での不安」(4項目)の合計37項目である。長期実習後においてのみ、長期実習中の不安の程度を振り返って評定してもらった。4段階評定法で調査した。分析方法:ストレス反応尺度への回答から、6回の調査におけるストレス反応の推移のパターンを明らかにする。また、それらストレス反応の推移パターンと、学生の不安との関連を検討する。【倫理的配慮、説明と同意】 調査に際し、対象者には研究の目的と方法、調査結果が成績に影響しない事を説明し、同意を得た。【結果】 1.時期におけるストレス反応得点の差の検討 6回におけるストレス反応尺度の合計得点の差を分散分析によって検討した結果、長期中と長期後に有意差が認められ、長期中よりも長期後の得点が5%水準で有意に低かった。2.ストレス反応の推移の検討ストレス反応尺度の下位尺度について、最も時期に応じて変動しやすい得点をとらえるため、6回の調査によって得られる各下位尺度の得点を算出したところ、情動的反応における標準偏差が最も大きかった。よって、この得点が6回の調査を通して最も変化している得点であると考えられた。そこで、評価前から長期後の情動的反応の得点からクラスタを抽出した。その結果、3つの群に分けることができた。第1群は評価前・評価中・長期後のストレスが低い群、第2群は評価前・評価中のストレスが高い群、第3群は全体を通してストレスが高く、評価前・長期後が高い群であった。3.ストレス反応と不安項目の得点との関連実習中のストレスが、実習における不安を反映するものであるかを検討するため、長期実習中のストレス反応の各下位尺度得点と、その時期の不安についての得点との関連を検討した。その結果、各不安項目間の相関は認められたものの、各ストレス反応との相関は認められなかった。また、各クラスタを独立変数、不安項目の各得点を従属変数とした分散分析を行なったが、これについても有意差は認められなかった。【考察】 学生のストレス反応は、実習によって上がり、実習が終わることで低下するというパターンが想定されていたが、予想に反して、その変化にはさまざまなパターンが存在することが明らかにされた。一様に実習がストレス反応を上昇させるとはいえないようである。また、実習中のストレスと実習に対する不安との関連がみられなかったことから、実習中の学生のストレスは、学生が意識している不安からはとらえきれないものであると考えられる。これについては今後の検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】 先行研究によると、臨床実習において学生は強いストレス反応を示すが実習を経験するにつれてストレスが低減していくと示されている。だが本研究の結果からは、一概にそのような推移を示すとは言えないことが明らかにされた。予測ストレスは低いが実習中に高くなる群(第2群)や、予測ストレスは非常に高いが、実習中は予測ほどにはストレスを感じない群(第3群)などである。このパターンが存在することを念頭に置きつつ、学生に接する必要がある。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Gd1484-Gd1484, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572882944
  • NII論文ID
    130004693733
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.gd1484.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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