概念地図法における学習方略の検討

DOI
  • 小村 直之
    茅ヶ崎リハビリテーション専門学校理学療法学科
  • 久世 悠
    茅ヶ崎リハビリテーション専門学校理学療法学科
  • 高橋 遼
    茅ヶ崎リハビリテーション専門学校理学療法学科
  • 田中 一秀
    (株)Awesome Life
  • 河辺 信秀
    茅ヶ崎リハビリテーション専門学校理学療法学科

書誌事項

タイトル別名
  • ─要素ごとの学習が学習効果と知識忘却率へ及ぼす影響─

抄録

【はじめに、目的】 理学療法士養成校入学後の学生は学んだことのない新しい知識の獲得に困惑する事が多い.理学療法領域の解剖学や運動学などの学習は文章のみで理解することが難しい.科目間の関連を理解することも難易度が高いため,理解の伴う知識を獲得するためには重要なキーワードの概要を相互に関連付けることが肝要である.概念地図法を用いた学習方略は学習効果が高いことが先行研究にて示されている.しかし,その学習方略の中で,どの要素が学習効果を高める因子なのかは明確ではない.学習要素の一つであるキーワードは,関連性を考えながら概念を構成する際に要となる因子である.そこで,概念地図のキーワードの一部を空欄にする手法を採用し,概念地図法の学習方略の一部であるキーワードという要素を検証した.また,キーワードを線で結ぶことにより関連付けを行う点が概念地図法の特徴である.この線を引く作業を2つめの学習要素として採用した.対照として,「文章に下線を引く」という通常の学習方略を採用し,上記2つの学習方略と比較を行った.これらの3群間に学習効果と記憶の定着率に違いがみられるか明確にすることを目的に本研究を実施した.【方法】 対象は当校に在籍する理学療法学科1年生44名であった.年齢は19.9±4.1歳,性別は男性32名,女性12名であった.対象は本研究で行うファロー四徴症の課題について知識がない者に限定した.アンケートから概念地図法を熟知している者はいなかった.対象は無作為に3群に割りつけた.各群は異なる方法で課題の学習作業を20分間行った.A群は課題についての資料のみを配った.文章の重要だと思うところに下線を引く作業を行った.下線を引く部分はこちらから指示を出さなかった.B群は課題についての資料と,事前に作成した「キーワードは書かれているが線でつながれていない概念地図」を配った.概念地図に線を書き込み,キーワードをつなげて概念地図を完成させる作業を行った.C群は課題についての資料と,事前に作成した「線は引かれているがキーワードが空欄になっている概念地図」,およびキーワードが書かれているカードを配った.資料を見て空欄になっている部分にどのカードが当てはまるのか考え,概念地図に配置して完成させる作業を行った.学習作業終了後,休憩を20分間とり,パソコンで多肢選択試験(以下MCQ)を30分間行った.1週間後にも同様の試験を実施した.MCQデジタル試験による30問中の正当数を評価指標とし,学習直後のMCQ正当数,1週間後のMCQ正当数を1元配置分散分析にて比較した.また,Scheffeの多重比較も行った.知識の忘却率は,学習直後と1週間後のMCQの変化とし,繰り返しのある2元配置分散分析を用いて解析した.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者に研究の主旨,方法,個人情報の厳守について説明を行い,同意を得た.【結果】 3群の学習直後のMCQ正当数はA群19.8±3.6問,B群18.1±5.9問,C群19.1±4.3問であり,3群間に有意な差は認められなかった.1週間後のMCQ正当数はA群16.1±4.5問,B群15.7±5.6問,C群16.7±5.0問であり,3群間に有意な差は認められなかった.Scheffeの多重比較においても差は認められなかった.知識の忘却率は,標本内因子に有意差がみられたが,標本間因子と交互作用には有意差が認められなかった.【考察】 学習直後と1週間後のMCQ正当数の比較では,3群間の正当数に差がない結果となった.知識の忘却率に関しても差が認められなかった.正当数が高い群や忘却率の低い群の要素が学習効果に関与していると考えていたが,分解した要素ごとの学習では学習効果や忘却率に良い影響を与える可能性は低いと考えられた.先行研究では,リンクワードを決められていると学習効果があるとされている.しかし,今回の実験では,事前にリンクワードを設定した群でも効果に差がなかった.さらに,概念地図そのものも,対象が自らの思考で作成したものではなく,概念形成が不十分になってしまったと推測される.従って,学習効果や記憶の定着を得るには,概念地図を用いた学習においてはキーワード抽出から関連付けまで,全ての作成を自ら行うことが重要だと考えられた.【理学療法学研究としての意義】 本研究において,学習方略の要素を分解した学習をしても学習効果は得られず,初めから概念地図を作成することが重要であると示唆された.理学療法領域の教育において思考整理に役立てるツールとして概念地図法を用いるにあたり,その有効な運用方法を検証する一助になる研究であると考えられた.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Ge0072-Ge0072, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572899200
  • NII論文ID
    130004693749
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ge0072.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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