膝前十字靱帯再建術後における膝伸展方向に関与する固有感覚機能の特性

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  • 運動平衡保持法と運動検出閾値検査による比較

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【目的】膝前十字靱帯(ACL)損傷患者における膝関節の固有感覚機能が低下すると考えられているが,多くの先行研究からは一定の見解が得られていない。それらの先行研究では,臨床で患者が訴える膝関節の不安感や違和感の原因となる固有感覚機能を検出できていない可能性がある。我々のグループでは,ACL損傷患者に対する膝関節の固有感覚機能の検査として,従来実施されている位置覚や運動覚の検査だけでなく,新たな手法である運動平衡保持法による力覚を含めた包括的な検査の必要性を報告した(金子ら,2008)。今回は,ACL再建術で自家移植腱として使用されるハムストリングの侵襲に注目し,ハムストリングの機能がより必要だと考えられる後方からの呈示力に抗して実施する運動平衡保持法と,従来の手法である運動検出閾値検査の結果を比較することで,ACL損傷者の固有感覚機能の特徴を検出することを目的とした。<BR>【方法】被験者はACL損傷患者9 名とし,ACL再建術の術前と術後3カ月に運動検出閾値検査と運動平衡保持法を行った。再建術は自家半腱様筋腱および薄筋腱を用いて行われた。運動検出閾値検査は等速性運動機器(Cybex Norm)を使用し,膝関節60度の状態から他動的に膝関節を伸展させた。運動速度は1 deg/secとし,被験者は運動を主観的に知覚した時点で合図をした。実験中,被験者は下腿がアタッチメントと接触していることで皮膚の動きや等速性運動機器の振動を知覚する可能性があるため,皮膚からの感覚入力を遮断する目的で下腿部にエアキャストを装着した。また,検査中に被験者は閉眼し,かつノイズ音が流れるヘッドホンを着用することで視覚および聴覚を遮断した。運動が開始してから被験者が合図した時点までの角度変化量を算出し,その値を運動検出閾値とした。運動平衡保持法は感覚運動機能検査練習装置(キネステージ)を使用し,金子ら(2008)の方法と同様にして行った。装置からの呈示力は後方から前方に向けて膝関節を伸展させる方向に加えた。呈示力は最大20 Nとして正弦波様に変化させ,周期を12,15,18秒と設定した。被験者には閉眼および耳栓をした状態で呈示力との釣り合いを保つように膝関節屈曲力を調節することを指示した。分析対象は周期18秒とした。呈示力との釣り合いの程度は足部位置の変化に反映される。したがって,周期18秒における位置絶対誤差を算出し,足部位置の移動距離の指標とした。また,変動誤差を算出し,試技複数回実施時における位置絶対誤差のばらつきの指標とした。統計学的分析は運動検出閾値と運動平衡保持の位置絶対誤差,変動誤差の値をそれぞれ従属変数とし,検査側(健側・術側)と時期(術前,術後3ヵ月)を要因とした二元配置分散分析を行った。その後の検定として単純主効果の検定を行った。有意水準は5%とした。<BR>【説明と同意】被験者にはヘルシンキ宣言に基づき,事前に研究目的や測定内容等を明記した書面を配布し,十分な説明を行った。その上で,被験者より同意を得られた場合のみ測定を開始することとした。<BR>【結果】運動検出閾値検査の結果は,交互作用がなく,要因内での主効果も有意な差はなかった。運動平衡保持法の結果は,位置絶対誤差,変動誤差ともに交互作用がなかった。しかし,要因内での主効果は,対象側要因で位置絶対誤差に有意な差があった。さらに,単純主効果の検定でも,術後3カ月の対象側間で有意な差があった。<BR>【考察】運動検出閾値検査の結果では有意な差がなく,運動平衡保持法では有意差があったことから,ACL再建術前後の固有感覚機能を検査するためには力覚を含めた包括的な検査が必要であることが示された。金子らの報告では,前方からの呈示力に対して術後3カ月では術前,健側,健常者と比較して有意に位置絶対誤差が大きいとされており,大腿四頭筋の固有感覚機能の関与が示唆された(金子ら,2008)。今回の課題である後方からの呈示力に対しての運動平衡保持はハムストリングの固有感覚機能の関与が考えられ,術前では健側と患側の間に有意な差がなかったにも関わらず,術後3カ月では有意な差が現れていた。このことは,固有感覚機能の低下はACL損傷によるものではなく,ACL再建術による影響が大きいことが示唆された。ハムストリングのひとつである半腱様筋の腱を採取したことで形態の変化が生じ,包括的な固有感覚機能が低下することが示された。一方,力覚が関与しない運動検出閾値検査の結果は再建術後も固有感覚機能に有意差がなかった。これらのことを合わせると,ACL再建術後の固有感覚機能の低下は力覚が関与している可能性があることが推察される。<BR>【理学療法学研究としての意義】運動平衡保持法が従来の方法では検出できなかったACL再建術前後の固有感覚機能を検出することができる可能性が示され,新たな固有感覚機能の検査方法として有用であるといえる。

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572930048
  • NII Article ID
    130004582442
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.c4p2178.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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