膝前十字靭帯再建術後反対側を再受傷する膝と再受傷しない膝の筋力の特性に関する検討
書誌事項
- タイトル別名
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- 両側損傷例の再受傷前の健側筋力に着目して
説明
【目的】当院では、膝前十字靱帯損傷後の再建術はBTB(骨付き膝蓋腱)による再建術を行っている。膝前十字靱帯(以下ACL)損傷は再建術の手技、リハビリテーション技術の向上により、スポーツ復帰率が向上している一方で反対側受傷、または同側再受傷に至る症例もみられる。スポーツ外傷のリハビリテーションにおいて、ACL損傷リハビリテーションの目的は再発の防止、または、損傷予防も重要な要因である。ACL損傷予防のひとつとして、膝周囲筋力の向上があげられるが、筋力が向上したケース、または、筋力の強いケースでも反対側、または同側ACL再受傷を起こす事が臨床上みられるように思われる。こうしたことから、今回ACL損傷の受傷原因の一つとされる膝周囲筋の筋力の特性について、等速性筋力測定器を用い、初回ACL損傷群の健側と両側損傷群の再受傷前の健側における筋力の特性について比較検討したので報告する。<BR><BR>【方法】2000年12月~2009年3月までの間に当クリニックにてACL再建術後、理学療法を施行した1,779名のうち、反対側も損傷した患者59名中、13歳から18歳までの女性(中高生)で2回目受傷が切り返し受傷による7名のケースにおける初回受傷時の非受傷側の筋力(再受傷前の膝筋力)と、片側損傷の13歳から18歳までの女性(中高生) で、切り返し受傷18名の非受傷側の筋力(再受傷しない膝筋力)をBIODEX(SYSTEM3酒井医療株式会社)にて計測した項目について比較検討した。尚、統計学的処理は対応のないt検定を用い、有意水準は5%未満とした。<BR><BR>【説明と同意】<BR><BR>【結果】(1)最大トルク(伸展筋、屈曲筋)、(2)最大トルク/体重(伸展筋、屈曲筋)、(3)主動筋/拮抗筋対比(H/Q比)、(4)トルク@0.18sec (伸展筋、屈曲筋)、(5)加速時間(伸展筋、屈曲筋)、(6) 最大トルク発生時間、(7) トルク@0.18sec/最大トルクの7項目について検討した結果、上記(1)から(5)までは有意差を得られなかった(p>0.05)。しかし、(6)膝伸展筋の最大トルク発生時間について、両側損傷の膝伸展筋健側値平均595.7±93.6msec、片側損傷の膝伸展筋健側値平均501.2±106.0msecと片側検定にて有意差を得た(p<0.05)。同項目の屈曲筋では、両側損傷620±253.6msec、片側損傷604.4±288.1msecと有意差は得られなかった(P >0.05)。また、(7)膝伸展筋のトルク@0.18sec/最大トルクにおいて、両側損傷の膝伸展筋健側値平均63.9±6.7%片側損傷の膝伸展筋健側値平均74.0±9.5%と両側検定、片側検定とも、有意差を得た(p<0.05)。同項目の屈曲筋では両側損傷74.6±18.3%、片側損傷77.7±13.4%と有意差は得られなかった。<BR><BR>【考察】今回の結果では、ACL再建術後反対側を再受傷する膝と再受傷しない膝の筋力では膝伸展筋の最大トルク発生時間とトルク@0.18sec/最大トルクにおいて有意差を得られた。ACL損傷のリスクファクターと考えられてきた最大筋力や、筋バランスでの有意差は見られず、筋力の発生から最大トルクまでを表す数値においてのみ有意差が得られた。ACL損傷における切り替えし受傷では、荷重側のknee-in、toe-outによる損傷が多く、スポーツの場面で、ディフェンスをかわすなど、膝外反位、下腿外旋位などのマルアライメントが受傷機転の一つとして考えられている。この際、膝外反位、下腿外旋位などの崩れた姿勢に対して、対応の早い選手は、崩れた体制を立て直すためのリアクションが早く、対応の遅い選手は、崩れた体制を立て直すリアクションが遅くなると仮定すると、膝伸展筋の最大トルク発生時間や0.18secの早い時間での最大トルクに対する出力の低下がACLを損傷するリスクファクターの一つとして考えられる。また、固有感覚系についても近年ACL損傷に関与していると述べられているため、切り返しで崩れた姿勢を固有感覚系が早い反応で感知し、筋出力発生時から最大トルクに達するまでの時間を短縮できるようなリハプログラムを検討することが、ACL損傷予防の一要因になるのではないかと考える。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】今回は10代女性の切り返し受傷に絞って検討したが、今後は、さらに各年代別傾向や、競技種目、性別、受傷機転などについても比較検討を行い、スポーツ現場におけるACL損傷リスクを軽減できるよう努力していきたい。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2009 (0), C4P2179-C4P2179, 2010
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205572932352
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- NII論文ID
- 130004582443
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可