部位別の筋疲労が握力に与える影響

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抄録

【目的】<BR>握力低下は,橈骨遠位端骨折後の廃用性筋萎縮や関節拘縮など,臨床でも関わる事が多くある.その原因の1つとしてリハビリの開始時期や方法に問題があるのではないかと考えられる.今回手内筋と外在筋の筋疲労と握力の関係を計測によって明らかにし,結果から握力低下を最小限に抑え,効率的かつ早期から握力の改善を図る運動療法について検討を行う事を目的とした.<BR>【方法】<BR>対象は,握力に影響を及ぼすような手指・前腕に神経筋疾患,外傷の既往のない健常成人男性15名(24.3±1.8歳)とした.<BR>握力計はスメドレー式(竹井機器工業株式会社)を用いて,PIP90度屈曲位になるように設定した.<BR>計測肢位は,立位で上肢を体側につけ,肘伸展位にて手関節背屈固定装具を装着した状態とした.手関節背屈固定装具は手関節背屈20度に設定した.握力計測は運動課題前後に2回測定し,大きい値を代表値とした. <BR>運動課題は,屈曲群(主としてMP屈曲),掌屈群,背屈群の三群に分けた.運動課題時は,セラバンド(黒)の輪の部分を屈曲群はMP関節遠位部から手指にかけ,掌屈群はMP関節近位部から橈骨手根関節遠位部まで,背屈群ではMP関節をまたぐように設置した.運動課題の負荷は,代表値の10%になるように設定した. 運動課題の肢位は,椅座位で肘関節を90度屈曲として,机上に前腕を固定した.前腕は,手指屈曲(以下屈曲群),橈骨手根関節掌屈(以下掌屈群)で前腕回外位,橈骨手根関節背屈(以下背屈群)で回内位とし,弾性包帯を用いて固定した.<BR>運動課題施行時は,電子メトロノームを用いて,1Hzのリズムで運動を行なった.運動課題終了は,関節運動が起こらない,またはリズムに遅れた時点とした.<BR>解析は運動課題前後の握力計測値について,対応のあるt検定を行った.<BR>【説明と同意】<BR>所属施設における倫理委員会の許可を得た.対象には,ヘルシンキ宣言をもとに,保護・権利の優先,参加・中止の自由,研究内容,身体への影響などを口頭および文書にて説明した.同意が得られた者のみを対象に計測を行った.<BR>【結果】<BR>運動課題3群について,握力の平均値は,運動課題前で屈曲群:37.1±5.3kg,掌屈群:36.8±9.2kg,背屈群:35.5±3.2kgとなった.運動課題後で屈曲群:30.0±3.1kg,掌屈群: 35.7±8.4kg,背屈群:33.7±3.6kgとなった.各群に運動課題後握力低下が見られ,屈曲群:-7.1kg(危険率1%),掌屈群:-1.1kg(有意差なし),背屈群:-1.8kg(危険率5%)となり,屈曲群が著しく有意に握力の低下を示していた.<BR>【考察】<BR>屈曲群が著しく有意に握力を低下させた要因として,握力は手指屈曲運動であり,筋疲労により握力が低下したと考えた.本研究では,MP関節屈曲を主動作とした運動課題を行なっており,深指・浅指屈筋に比べ,虫様筋・骨間筋が筋疲労したと推測された.これらの筋が筋疲労による収縮不全を起こし,MP関節固定が困難となった事が浅指・深指屈筋の筋力発揮効率を低下させたと考えられた.また,背屈筋群の筋疲労が握力低下に繋がる事が示唆された.鈴木らは,手関節の肢位と握力の関係についての報告で,手関節可動範囲内の13肢位での握力測定を行なっており,背屈20°軽度尺屈位が最大握力を発揮できるとしている.今回の運動課題では関節運動が起こらない,または1Hzのリズムに遅れるまで課題を行なわせた.その為,筋疲労から手根伸筋群が機能せず,tenodesis actionの作用が低下した事が握力低下に繋がったと考えられる.また手根伸筋だけでなく,総指伸筋もisometricな収縮が加わり疲労していたと考えらる.これらの事から,手根伸筋群に加え総指伸筋の疲労による機能低下によって背屈位を保持できず,さらにMP・IP関節の固定力の低下が握力低下に繋がったと考えられる.本研究結果から握力強化において,手指屈曲のみでなく背屈筋群・手指伸筋を鍛えていく事により,効率的に握力強化が行えると考えられる.<BR>臨床で多く見られる橈骨遠位端骨折後のリハビリを考えると,外固定のみで安定していても一貫して受傷後約1週間は再転位の危険性があり,自動による手指屈伸運動がメインとなる.一般的に外固定除去後,筋力訓練等が開始されるが,特に疼痛がなく可能であれば,前腕を台に乗せた肢位にてクッション性のあるボール等を使い,MP関節屈曲運動を早期に取り入れる事により,筋力低下を最小限に抑え維持する事が出来ると思われる.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 今回の研究は,握力強化における効率的な強化方法の模索と,早期リハの一提案として,臨床に応用していく事ができると考えられる.<BR><BR>参考文献<BR>鈴木 徹:手関節肢位と握力の関係について,理学療法学 13(6), 409-413<BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), C4P2157-C4P2157, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572950656
  • NII論文ID
    130004582421
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.c4p2157.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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