腰痛に対するストレッチング効果の基礎的研究

書誌事項

タイトル別名
  • 温熱療法との併用効果について

説明

【目的】近年,腰痛とは自覚症状・受診病名共に上位にあり,腰痛に対する理学療法として,ストレッチングと温熱療法が多用されている.腰痛の理学療法について,多くの報告がなされており,ストレッチングと温熱療法が有効であるとの報告はあるが,2つの治療法の併用効果について,明確にされている報告は見当たらない.ストレッチングと温熱療法の生理学的効果には,類似するものが多く,2つの治療を併用することによる相乗効果について明らかにすることは理学療法上有用であると考えられる.本研究の目的は,ストレッチングと温熱療法併用時の効果について,軟部組織硬度(soft tissue hardness;STH)、長座体前屈(long sitting flexion;LSF)を評価指標とし、その効果を明らかにすることである。<BR>【方法】対象は健常男性成人5名,平均年齢は26歳(21歳~29歳),平均BMIは21.9であった.これら5名に対して,4つの介入を実施した.腰部と左右ハムストリングスの静的ストレッチングを疼痛閾値以下の強度で30秒2回施行したものをストレッチング群(str群),パルスマイクロ波(伊藤超短波社製)を20分間,平均出力100W未満の強度で照射したものを温熱療法群(heat群),パルスマイクロ波を20分間照射した後にストレッチングを施行したものを温熱療法+ストレッチング群(heat+str群),また介入を行わず20分間安静側臥位を保持したものをコントロール群(cont群)とした.4つの介入は,24時間以上の間隔を設けて実施した.STHの測定方法に関しては,大転子の高さの台を前方に配置し,膝関節を伸展させ,腰部を屈曲させた状態で,右下肢内側ハムストリングスと右脊柱起立筋群L1レベルのSTHを,軟部組織硬度計(ACP社製)を用いて測定した.また,3回の測定を行いその平均値を代表値とした.LSFは,新体力テストに準じた測定方法により2回の測定を行い,最大値を代表値とした.統計解析には4群間のSTH,LSFの値を介入の前後で比較し,二元配置分散分析,Tukey検定を用い,有意確率は5%とした.<BR>【説明と同意】本研究は,郡山健康科学専門学校の倫理委員会に承認を得た.対象は本研究に対する説明を受けた後,同意が得られた者のみとした.<BR>【結果】二元配置分散分析より,4群間での有意なパターンの変化を示した(p<0.05).その後のTukey検定においてLSFに関しては,介入の前後で有意な改善を認めたのはheat+str群のみであった(p<0.05).個々の筋に対してのSTHに関しては,変化が認められなかった.しかしながら,腰部とハムストリングスの合計値(Total-STH)においては,cont群に比較してheat+str群のみ有意な低下を認めた(p<0.05).<BR>【考察】ストレッチング単独や温熱療法単独においては,有意な変化が認められなかった.しかし,温熱療法を併用したストレッチングにおいては,長座体前屈が有意に増加し,柔軟性の改善が認められた.また,Total-STHの変化において有意な低下が認められたことから,筋組織自体の伸張性が向上したことが推察された.これは,ストレッチングを行う前に温熱療法を施行したことによって,温熱療法の効果であるコラーゲン線維組織の伸張性の増加や疼痛閾値の上昇が起こり,その後のストレッチング時に疼痛などによる交感神経系の反応を抑え,筋組織や関節周囲組織の伸張性を促したためと考えられる.したがって,本研究結果は,温熱療法とストレッチングを併用することで,両者の治療による相乗効果が生じ,温熱療法やストレッチングを単独で行う治療と比較し,より効果的であることが示唆された.本研究結果では,ハムストリングスや腰部の脊柱起立筋群の個々のSTHでは,有意な低下が認められなかったにも関らず,LSFにおいて有意な増加が認められた.この結果は,LSFが体幹や上下肢を含めた筋・関節の複合運動であるため考えられる.このため,ハムストリングスと腰部の脊柱起立筋群のSTHの総和を指標としたことで差が見られたと推察された.今回の研究では,被験者数が少ないため,明確な相乗効果が得られたとは判断できないが,今後は被験者を増やして検討を進めたい.また介入効果については,介入直後から20分間での短期的効果のみに着目したが,さらに長期的効果において,その持続性の検証を行い,相乗効果を明確にしていきたい.<BR>【理学療法学研究としての意義】現在,臨床の現場で温熱療法やストレッチングは頻繁に用いられており,温熱療法を施行した後にストレッチングや他の運動療法を行う理学療法士は少なくない.しかし,これらの相乗効果は実際にどの程度の効果が期待できるかについての基礎的研究による実証は行われていない.したがって,温熱療法と運動療法の相乗効果を明らかにすることは,腰痛疾患などに対する理学療法プログラムを明確にし,より効果的かつ効率的な治療を提供できることを示す意味からも,本研究は意義があるものと考える.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), C4P1152-C4P1152, 2010

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572964608
  • NII論文ID
    130004582404
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.c4p1152.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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