膝伸展筋における筋膜連結の機能的役割

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【目的】我々は、膝伸展筋の筋長とその発生張力との間の関係に「二峰性」を示唆する興味深い実験結果を前回の本大会において報告した。一般に、筋長と等尺性強縮張力との間の関係では、強縮張力は筋長を伸長するに従い徐々に増加し、静止長で最大となりその後減少するという上に凸の一峰性を示す。しかし、in vitroの実験において膝伸展筋の収縮張力変化には、筋の伸長に伴って上に凸のピークが2カ所観察された。そこで本研究では、生体内における膝伸展筋の機械的収縮特性を調べるために、精密な実験システムを新しく構築してin vivoにおける膝伸展筋の収縮張力を測定し、in vitroの結果と比較検討した。<BR><BR>【方法】実験には12匹のウシガエル(Rana catesbeiana)(体長:126 ± 5 mm)の膝伸展筋である大腿三頭筋(ヒトの大腿四頭筋にあたる)(以下、三頭筋)の内・外側広筋を標本として用いた。ウレタンを用いて腹腔内投与により麻酔した後、坐骨神経を尾骨部分から露出させ、さらに筋膜をできるだけ温存しながら三頭筋の支配神経分枝だけを残して、他筋への分枝をすべて切断した。カエルを実験バスに固定し、三頭筋腱に取り付けたフックを張力計に固定をした。適宜標本の筋長を変えて十分な強度の電気刺激(60 Hz, 0.5 s)を坐骨神経に与え、そのときに発生した等尺性強縮張力をオシロスコープにて記録した。同時に高速度CCDカメラで撮影し、張力発生時の筋長を画像処理解析ソフト(デジモ、大阪)を用いて解析した。筋膜を温存したとき(以下、連結条件)の長さ‐張力関係(N=7)、および筋膜を切断し他筋との連結を無くした状態(以下、切離条件)の長さ‐張力関係(N=7)を比較検討した。張力データは各標本の最大張力、そして筋長データは大腿骨長(大腿骨頭-膝関節面)でそれぞれ除して正規化した。実験中はSpO2を確認しながら呼吸管理を行った。実験はすべて20 ± 0.5 &ordm;Cの温度条件下で行った。<BR><BR>【説明と同意】本研究に際して、事前に本学の動物実験委員会の承認を得た後、実験動物に苦痛を与えないようにして実験を行った。<BR><BR>【結果】三頭筋の収縮張力は筋長が約0.72から1の範囲で測定された。連結条件の収縮張力は、筋長が約0.73から発生して急速に増加、約0.84で最大張力に達し約0.88まで続きその後低下した。静止張力は、筋長約0.82から出現し急速に増加した。一方、切離条件の収縮張力は、筋長が約0.72から発生し0.75まで緩やかに増加し、その後増加率が増大し約0.86で最大張力となり約0.89まで続きその後低下した。静止張力は筋長約0.79からとても緩やかに増加し約0.85から急速に増大した。連結条件および切離条件ともに昨年報告した二峰性の長さ-張力関係とは異なる、上に凸の一峰性の関係を示した。その一峰性曲線の上行脚の増加率および下行脚の低下率ともに連結条件の方が切離条件より大きく、最大張力持続範囲も長かった。切離条件の長さ-張力関係は、連結条件のそれよりも右にシフトしていた。<BR><BR>【考察】一般に、1つの全筋は数多の筋線維が結合組織により束ねられて立体構造になり、その全筋は結合組織により周辺の全筋と連結をする。本研究で用いた標本は三頭筋の内側広筋と外側広筋である。それぞれの筋の起始は股関節周囲の異なる場所から始まり脛骨に付着する1本の腱に停止する。さらに両筋とも腱と筋線維とのなす角度が大きい羽状筋である。それらが1枚の厚い筋膜に包まれて1つの全筋の形を呈し他筋と筋膜を介して連結をしている。本研究における連結条件と切離条件の長さ-張力関係の違いは、他筋との筋膜連結が筋出力にとって重要な役割を担っていることを示す。切離条件によって長さ-張力関係の上行脚が崩れ、最大張力を発生させるために余分な筋の伸長が必要となり最大張力が発生する範囲も狭くなった。この実験結果が示唆する筋膜連結の機能的な役割は、全筋の外形を整えて2つの羽状筋内の複雑な配置にあるすべての筋線維がより効率的に張力を発生できるように助けることである。また、全筋の形が破壊された非生理的な究極の姿が昨年報告をした二峰性現象と考えられる。しかし、この非生理的条件下で表面化した二峰性は、逆に言えば筋膜連結がなされている生理的状態にあるとき内側広筋と外側広筋の異なる収縮特性は調和して1つになり三頭筋の筋出力になっていることを示唆している。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】本研究結果は、筋膜連結の機能的役割の1つを示した基礎的な事実であり、理学療法臨床場面で考察する上で基礎となるものと考える。

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