片脚起立時の内部股関節外転モーメントと股関節内転筋と外転筋の筋活動様式について

  • 中本 舞
    西広島リハビリテーション病院リハビリ科
  • 木藤 伸宏
    広島国際大学保健医療学部理学療法学科

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説明

【目的】<BR>片脚起立動作時には,股関節の安定性のために股関節外転筋群の筋力的要因が大きく影響されることが報告されている.しかしながら,股関節内転筋群も骨盤の安定性には重要であるとされている.筋電図を用いた過去の報告では,股関節外転筋である中殿筋に焦点があてられている研究が多く,股関節内転筋群に関する研究はあまり行われていない.そこで本研究は,片脚起立動作時の内部股関節外転モーメント発生に関与する股関節外転筋群と股関節内転筋群の筋活動の関係について検討した.<BR>【方法】<BR>被験者は健常若年成人女性11名(平均年齢21.09 ± 0.30歳)であった.課題動作は両脚起立から股関節と膝関節90度屈曲位の左片脚起立までの動作とした.動作の運動学データは赤外線カメラ8台を用いた三次元動作解析装置Vicon MX(Vicon Motion System社,Oxford)で計測し,同時に床反力計(AMTI社,Wateretown)2枚を用いた.マーカーは臨床歩行分析研究会の推奨場所を参考にし,直径14mmの赤外線反射マーカーを使用して7リンク剛体モデルを作成し分析を行った.三次元動作解析装置Vicon MXと床反力計,身長,体重を用いて複数の筋の筋張力の総和や関節支持組織が発した張力を内部股関節外転モーメントとして算出した.本研究では股関節外転筋群と股関節周囲の軟部組織の総和により算出された値を内部股関節外転モーメントと表現した.また両下肢の筋に筋電計Telemyo2400(Noraxon社製,Scottsdale)を用い,両側の大腿筋膜張筋,大殿筋,中殿筋,内転筋群の8筋でディスポーザブル電極Blue Sensor(Ambu社,Denmark)を計17個貼付した.貼付場所は表面筋電図マニュアルEM-TS1を参考とし,皮膚インピーダンスが10kΩ以下となるよう皮膚処理を行った.床反力計と筋電計を計測機器とし,片脚起立動作時の内部股関節外転モーメントと最大筋力発揮時に対する相対的筋電積分値(%IEMG)を算出した.<BR>【説明と同意】<BR>本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究であり,研究の開始にあたり広島国際大学の倫理委員会にて承認を得た.また,すべての被験者に対して,本研究の趣旨を十分に説明し,本人に承諾を得たうえで実施した.<BR>【結果】<BR>左片脚起立時の各筋の%IEMGは大腿筋膜張筋22.70 ± 12.06%,中殿筋39.35 ± 22.58%,内転筋群4.80 ± 4.38%,大殿筋43.32 ± 29.26%であった.多変量解析の結果,大殿筋,中殿筋,大腿筋膜張筋の%IEMGの増大は内部股関節外転モーメントの値の減少につながり,股関節内転筋群の%IEMGの増大は内部股関節外転モーメントの増大につながることが明らかになった.<BR>【考察】<BR>本研究で示された片脚起立時の股関節外転筋群の%IEMGは,最大筋力の25~25%と報告した先行研究とほぼ同程度の筋活動であった.つまり健常人は,片脚起立時に余裕のある股関節外転筋群の筋活動により前額面の姿勢安定化に貢献している.また,本研究では股関節内転筋群の筋活動は股関節外転筋群に比較すると低い値を示した.先行研究では片脚起立時に股関節内転筋群の筋活動は認められないという報告もある.しかしながら,剛体モデルを用いた力学的シミュレーションから,歩行時に股関節外転筋と内転筋の同時収縮の結果,筋合力は股関節外転筋のみが収縮した場合と比べて内方化し股関節の安定性に貢献していることが明らかとなっている.本研究で確認された股関節内転筋群の%IEMGは少ないが,股関節安定性に寄与していると推測される.<BR>股関節内転筋群の%IEMGの増大は内部股関節外転モーメントの値の増加につながることが示された.片脚起立時に骨盤は支持側に移動するとともに,骨盤平衡が維持される.その結果,床反力ベクトルは股関節を内転させる力となり,内部股関節外転モーメントが作用する.先行研究によると股関節内転筋群は歩行立脚期の骨盤の支持側への移動と大腿骨の直立化に貢献しており,本研究結果からも内部股関節外転モーメントを発揮させるための内転筋群の重要性が示された.また,一方,支持側への骨盤水平移動と骨盤水平保持が難しくなると,股関節外転筋群の筋活動は増加する.さらに体幹を支持側へ側屈させて対応し,床反力ベクトルは股関節の近くを通ることになりレバーアームが減少する.その結果,股関節外転筋群の%IEMGの増大は,内部股関節外転モーメントの値の減少につながると推測される.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>本研究は片脚起立時の股関節外転筋群と内転筋群の貢献度を明らかにした.また近年,内部股関節外転モーメントと疾患との関係が報告されており内部股関節外転モーメントを発揮するためには股関節外転筋群のみでなく内転筋群にも注目する必要性を提示できた.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), AbPI1017-AbPI1017, 2011

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

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