肩関節伸展-内旋運動時における肩甲骨の運動解析

DOI

抄録

【目的】 我々はこれまでの本大会において,肩関節挙上運動時にみられる肩甲胸郭関節での肩甲骨運動の解析を行い報告してきた。その中で,上腕挙上運動に伴い肩甲骨の上方回旋,後傾が有意に増加すること,さらにはこの2つの運動が挙上運動の初期段階および90°挙上位では関連性を有していることを確認した。しかし,肩関節に機能障害を有する患者においては,挙上運動とともに肩関節の伸展,内旋運動に困難をきたすことが多い。この複合動作は,いわゆる結帯動作において必要な運動であるが,胸郭上での肩甲骨の動態,すなわち肩甲胸郭関節の運動に関する分析に関しては報告がほとんどみられない。そこで今回は,肩関節の伸展-内旋運動時における肩甲骨の運動を計測し,分析を行ったので考察を加えて報告する。【方法】 対象は,肩関節疾患の既往のない健常成人女性9名18肩で,平均年齢は21.4±0.7歳,身長158.8±7.2cm,体重51.9±7.1kgであった。肩甲骨の運動計測には,超音波動作解析システム(zebris社製CMS-20S)を用いた。受信機を被験者背側に設置し,両側の肩峰および上後腸骨棘,肩甲棘三角,肩甲骨下角を触診した後に,ポインターにてマーキングを行った。開始肢位は足底が十分に接地した端座位とし,最初にこの肢位での計測を行った。運動課題は,座位における肩関節伸展および内旋の複合運動(以下,肩関節伸展-内旋運動)とした。具体的には,測定肢の第3中手指節関節が第4腰椎棘突起に接する肢位(以下,L4肢位),さらには第1腰椎棘突起に接する肢位(以下,L1肢位)をランダムにとらせて,その肢位を保持した状態で計測を行った。ソフトウェアにはZebrisWinspineを使用し,各ランドマークの空間座標を計測した。前額面では肩峰と肩甲棘三角を結んだ線から上方回旋角,矢状面では肩甲棘三角と肩甲骨下角を結んだ線から前傾角を算出した。この際,前額面では肩峰,矢状面では肩甲棘三角からの垂線を基準としてそれぞれ用いた。統計学的分析にはPASW Statistics 18を用い,有意水準は5%未満とした。肢位別にみた肩甲骨の動態変化に関しては,反復測定による一元配置分散分析を用いた後,Dunnettによる多重比較を行った。【説明と同意】 厚生労働省が定める「医療,介護関係事業における個人情報の適切な取り扱いのためのガイドライン」に基づき,対象者には本研究の趣旨を十分に説明し同意を得た上で計測を行った。【結果】 上方回旋角は,開始肢位:88.6±5.3°,L4肢位:80.3±4.8°,L1肢位:78.2±5.1°であり,3群間に有意差がみられた(p<0.001)。また,開始肢位に対してL4肢位,L1肢位はともに有意に低値を示していた(p<0.001)が,L4肢位,L1肢位間には有意な差はみられなかった。 一方の前傾角においても,開始肢位:8.7±3.0°,L4肢位:15.7±3.7°,L1肢位:18.2±3.5°と,3群間に有意差がみられた(p<0.001)。また,開始肢位に対してL4肢位,L1肢位はともに有意に高値を示していた(p<0.001)。しかし上方回旋角と同様,L4肢位,L1肢位間に有意な差はみられなかった。【考察】 結帯動作では,肩関節の伸展・内旋運動に若干の外転運動が生じる。屍体を用いた研究によれば,結帯動作の最終位では上腕骨小結節が臼蓋下方辺縁と衝突し,骨頭が最大内旋位となる(壇ら,2003)。生体における実際の動作では,肩甲胸郭関節における肩甲骨の運動を伴うことになり,この運動に制限が存在した場合には肩甲胸郭関節での代償運動が生じる。そこで,肩関節の伸展-内旋運動時における肩甲骨の運動計測を健常者で行い,分析することを研究目的とした。開始肢位に比してL4肢位,L1肢位で肩甲骨の上方回旋角が有意に減少していたことは,下方回旋運動が生じたことを意味する。この下方回旋運動に,前傾運動が伴ったことが今回の結果から分かった。つまり肩関節の伸展-内旋運動には,肩甲骨の下方回旋-前傾運動が必要であることが伺える。しかし,L4肢位,L1肢位間に有意差は認められなかった。このことから,両肢位の差異が肩甲上腕関節,あるいは肘関節の運動による影響であることが示唆される。つまり,手を体幹の背側にて使用する動作における肩甲骨の運動は,手の高位の影響が少ないことになる。また,事前に測定した自動運動による肩関節伸展可動域は,9名中6名で5~10°の差が,1名においては20°と大きな差がみられた。このことは,肩甲骨運動の差異にも大きな影響を与えているものと考える。これらのことから,肩関節の運動療法を行う上では,各個人の運動機能評価を詳細に行うことが必要である。【理学療法学研究としての意義】 肩関節の伸展・内旋運動時の肩甲骨の動態を把握することは,肩関節疾患患者の評価に重要な意味を有し,理学療法プログラム立案の一助となる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Ab0438-Ab0438, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573030912
  • NII論文ID
    130004692382
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ab0438.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ