脳卒中片麻痺上肢への把持力バイオフィードバック訓練の効果について

  • 塩塚 優
    鹿児島大学大学院医歯学総合研究科リハビリテーション医学
  • 磯村 篤永
    鹿児島大学大学院理工学研究科機械工学専攻
  • 林 良太
    鹿児島大学大学院理工学研究科機械工学専攻
  • 川平 和美
    鹿児島大学大学院医歯学総合研究科リハビリテーション医学

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説明

【目的】独自に開発した把持力バイオフィードバック訓練装置による訓練が片麻痺上肢の把持力や物品操作能力にもたらす効果を検討する。<BR><BR>【方法】対象は平成22 年4月~11月の期間に当院にリハビリテーション目的で入院した脳卒中片麻痺患者の中で、麻痺側ブルンストロームステージ手指4以上で訓練に支障のある高次脳機能障害がない13例である。対象はフィードバック訓練群8例(年齢: 63±15.6歳、罹病期間: 32±47.5ヶ月)と対照群5例(年齢: 67±18.6歳、罹病期間: 7±3.7ヶ月)に無作為に振り分けられた。独自に開発した把持力バイオフィードバック訓練装置は、圧センサーを内蔵した木製ブロックと同一画面上に把持力視標と目標軌道を表示するディスプレイとパソコンで構成されており、数種類の訓練を設定できる。両群とも期間中、通常のリハビリテーションに加えて、介入訓練として、フィードバック訓練群は同訓練装置の画面上に呈示される目標軌道(サインカーブ)に把持力指標を追随させる課題を、対照群は球形のセラピーパテ(シリコン性、SAKAI med社製)をつまんで平たくつぶす課題を行った。フィードバック訓練で呈示されるサインカーブは、最大把持力の約20%を基準として振幅は上下に基準の35%ずつ、周期は5秒で、対象はそれに指標を一致させることが求められた。両群とも介入訓練は20分/日、5日/週、2週間とした。評価は最大把持力、把持調整能力{目標把持力と実際の把持力の差; 目標軌道は直線(課題終了まで呈示、課題開始直後に消失)とサインカーブ}、簡易上肢機能検査(STEF)、nine hole peg test (NHPt)を用い、介入訓練の前後に行った。効果の判定は評価項目ごとに両群の介入訓練前後の改善度を比較したが、統計解析にはMann-Whitney検定を用い、有意水準は5%未満とした。なお、本研究は本学の倫理審査委員会の承認を得て実施した。<BR><BR>【説明と同意】対象には十分な説明をし、文書による同意を得た。<BR><BR>【結果】フィードバック訓練群は把持調整能力を表すサインカーブ追随中の誤差面積の改善 (-526.6±519.3gfs)が対照群(+304.7±495.4gfs)に比べて有意に (p<0.01)大きかった。両群の最大把持力や直線軌道課題、物品操作能力(STEF、NHPt)の改善度には有意な差はなかった。<BR><BR>【考察】フィードバック訓練群は対照群に比較して、サインカーブ追随中の誤差面積が有意に減少した。つまり、現時点では2週間の介入期間に訓練で行った課題のみで有意差が生じており、これは課題特異的な運動学習効果を示している。この課題では、把持力の強度を緩やかに調整する能力が必要で、手指屈筋群や母指球筋などの高度な協調性が求められる。今回の検討では、訓練課題と類似した項目以外の評価内容で統計的な差を示す事ができなかったが、把持力調整能力は把持運搬の重要な要素であり、この向上は物品操作能力などに汎化する可能性がある。今後、さらに症例数を増やし検討を進める必要がある。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】本研究では、バイオフィードバックを応用したコンピュータ化訓練装置を用いた把持訓練の効果を検討し、バイオフィードバックを利用する事で効果的な運動学習を促進できる事を示した。今後ますますロボテック訓練が拡大すると期待されるが、今回の検討は把持力の微調整という要素に焦点を当て、更にその改善の汎化の有無まで検討しており、今後の把持動作の治療プログラムについてセラピストに新たな視点を提供できたと考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), BbPI2165-BbPI2165, 2011

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

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